モンゴル料理の主役は羊肉。羊一頭を無駄なく使い切るようにできている店のメニューに、ほかの肉は見あたらない。
「草原の暮らしの中にある、そのままの料理を食べさせたい」
東京・池袋に「故郷(ノタガ)」という名の店を開いて3年になるナーリンさん(49)。モンゴルの家庭に伝わる味を守り、店に出す。羊肉を使った蒸しギョーザ「ボーズ」は、その一つだ。
「ボーズは私たちが普段よく食べる、まさに母の味です」。特に正月には来客に振る舞うため、幼い頃は一家総出で千個以上も作ったそうだ。「お客さんにボーズを食べさせないなんてだめです。ボーズが出てくるまで、みんなも帰りません」と、思い出して笑った。
できたてを口に運ぶ。少し厚めの皮を破って熱々の肉汁が出てくる。羊肉は機械でひくのではなく包丁で細かく切るため、適度な歯ごたえがある。少量のショウガとネギ、ニンニク、それから岩塩だけの素朴な味が、肉のうまみを引き立てる。
草原で9歳まで遊牧生活を送ったナーリンさんは、テントで生まれ、母乳の代わりにラクダの乳を飲んで育った。夫の仕事の都合で来日するまでは、五つ星ホテルで働き、本格的に料理を学んだ経験もある。でも、火を通す時間と塩加減だけで味が決まるシンプルなモンゴルの料理法は、「お母さんやおばあちゃんの姿を見て、自然に覚えたものです」。
昨年、東京・亀戸に二つ目の店「大蒙古(だいもうこ)」を開いた。モンゴルテント「ゲル」の骨組みを内装に生かし、民族衣装を飾る。店を切り盛りするのは長男のジンガラさん(24)と次男のソウルダさん(22)。モンゴルでは男性の仕事とされる羊の解体を、2人は見事にこなす。
日本の大学を卒業し、この道を選んだジンガラさんは、誇らしげに言う。「自分の文化を知ってもらう、価値のある仕事だと思います」