派手な電飾看板、通りにあふれる音楽、客引きの呼び声。「日本一の歓楽街」「不夜城」の異名を持つ新宿・歌舞伎町に、バンタイはある。「バン」はタイ語で家。王族の肖像画が飾られ、現地から取り寄せた仏像や家具が置いてある。外とは対照的な、落ち着いた空間が広がる。
タイ料理を代表する味といえば、エビや香草入りの辛くて酸っぱいスープ「トムヤムクン」を思い浮かべるが、「あれはレストランで食べるもの」とシェフのソンポンさん(46)。では、普段口にする料理は? 「それなら、クエッティオですよ」
米が原料の乾燥めんで、タイ米と同じく主食の一つ。日本でいう、うどんやラーメンのような存在だと言う。太さは細、中、幅広とさまざまで、食感は、日本のきしめんを少し硬くしたような感じ。ベトナムのフォーに似た味がする。
クエッティオは屋台で食べることが多い。タイの屋台は、自宅の食卓がわりに、気軽にふらっと行くところ。レストランの前にも屋台があるほど、よく見かけるのだという。
バンタイの「クエッティオナム」は、在日21年のソンポンさんが、両親の営む飲食店を幼いころから手伝って覚えた一皿だ。スープを意味する「ナム」は、鶏ガラスープに、大豆で作ったタイの薄口しょうゆ、粒コショウ、ニンニク、八角、パクチーの根っこなどを入れる。透明で、あっさりした味。かむたびに、めんにからんだ香辛料や香草のマイルドな香りが、鼻を抜けていく。両親はいつも「スープの味付けが大切」と言っていた。その教え通りの味を、日本に伝える。
タイ料理はすべてが辛いわけではない。さまざまな香辛料や調味料を組み合わせた「甘」「酸」「辛」の織りなす複雑なハーモニーが、真骨頂。屋台料理から宮廷料理まで100種以上あるここのメニューに、その奥行きをうかがうことができる。