「うなぎ」「天ぷら」とならんで「コスタリカ料理」と染め抜かれたのれんをくぐると、純和風の店内には陽気なラテン音楽が流れていた。畳敷きの一角の壁は鮮やかな色に塗られ、コスタリカの国旗や民芸品が飾られている。
カウンターの向こうには、二葉マリセルさんと夫の新一さん。新一さんが和食を、マリセルさんがコスタリカ料理を担当し、「うな重とタコスください」なんて注文も、ここではできてしまう。
この一見奇妙な「同居」が実現したのは、6年前。新一さんの父親の代から日本料理一本でやってきた店が経営不振で、やむなく閉店。一家そろってコスタリカへ移住することを考えるほど混乱したときに、マリセルさんが一念発起した。南米料理のレストランが多い日本で、コスタリカ料理も受けるに違いない。「新ちゃん、私を信じていいよ!」
以来、台所に立つマリセルさん。時々サンバのリズムにのってステップを踏みながら、器用な包丁さばきで、黒豆を煮る大鍋にタマネギを薄く切り落としていく。
「ガジョ・ピント」は、米や豆が主食のコスタリカの代表的な一皿。あめ色になるまでいためたタマネギ、香草と一緒に約3時間煮込んだ黒豆、コンソメスープでじっくり炊いたご飯を、フライパンの上で混ぜ合わせる。ご飯は生米を一度素揚げしてから炊くため、パラパラとした口当たりだ。
手間はかかっているが、コスタリカでは日本のチャーハンのような存在。親が忙しいと子どもがパッと作って朝食にする。「具に残り物を使ってもいいし、早くておいしいからね」とマリセルさん。
店の経営も上向き、コツコツとためたお金で今年10年ぶりに母国を訪れる予定だ。「コスタリカにある日本料理屋では、ガジョ・ピントをすし飯として使うところもあるらしいよ。海苔(のり)と合いそうだし、アボカドとレタスを使って巻物にするといいかも」。久しぶりの帰郷後には、新たなレシピが加わりそうだ。