結婚式などのお祝い事の時には必ず食べる、ルーマニアの国民食「サルマーレ」。ピクルスにしたキャベツを使った、スープのないロールキャベツだ。夏には、ワイン畑でつみ取った若いブドウの葉で作ることもある。
東京・銀座の「ダリエ」ではまず、10日ほどキャベツを丸ごとつけ込んでピクルスにする。外側の大きな葉で牛・豚ひき肉、タマネギ、米を包む。残りの葉もせん切りにして加えて、ベーコンの塊とともにトマトのとけ込んだスープで2時間ほど煮込み、オーブンで焼き上げる。盛りつけ方と量以外は、すべて本場のまま。キャベツの酸味が利いているので、肉をさっぱりと食べられる。
シェフの及川治道さん(59)が「ダリエ」を開店したのは30年ほど前だ。数カ月ごとに渡欧し、現地のレストランで働きながら勉強して、ルーマニアの調理師の資格を取得した。留学先は、日本で言えば京都にあたる古都・ブラショフ。社会主義政権下だった当時、この街にいる日本人は及川さん1人だけで、ちょっとした有名人だった。「高級レストランには顔パスで入れても、一般の民家のある地域には入れないんです。泊めてもらうなんてもってのほか。スパイ扱いされちゃうから」。行動には気をつけていたそうだ。
「政情が暗くても、個々人は明るくて陽気でした。なにしろ、ルーマニア人はローマ帝国の末裔(まつえい)、おしゃべりとワインが大好きなラテンの血が流れていますから」。確かに、店内に流れている民族音楽も、思わず踊り出したくなる小気味よさだ。このCDや手織りのテーブルクロス、壁に掛かったつのぶえ、ドラキュラ伯爵のボトルキャップなどは、及川さんが現地で買ってきたものだ。
民主化されてからは、ピザやハンバーガーなど西側の食文化も流れ込んだが、今でも10月半ばになると、街や村のあちこちでピクルス作りが始まる。サルマーレは国民食として、受け継がれ、食べられ続けている。