きっかけは、山口百恵主演の「赤いシリーズ」だった。子どものころに見たテレビドラマは、「誠実で勤勉な日本人」像をタム・ユントンさん(39)の心に焼き付けた。マレーシア北部の小さな村で、出稼ぎに向かう両親を見て育ち、いま、東京・銀座でレストラン「ラサ マレーシア」を構える。
貿易業と旅行業も営み、政府要人の通訳も務めれば、放置自転車を祖国の貧しい学生に送るボランティア活動もする。予定がぎっしりだが「忙しいのは皆同じ。時間は作らないといけません」。
高校時代にアルバイトで働いた日系のスーパーマーケットで、熱心な日本人上司に出会った。ドラマで見た日本人像がよみがえった。「日本には、途上国の我々が学ぶべきことがある」と、21歳で初来日。飲食店や工場で働きながら大学に通った。
卒業して、日本の旅行代理店に勤めていた30歳の頃、母国の航空会社の支社長に、「どうして日本人はマレーシアに行ってくれないんだろう、と聞かれたんです」。世界有数の観光地なのに、日本では認知度が低い。食文化をアピールしたら?と提案し、自ら腰を上げて新宿にレストランを開いた。5年前に銀座へ移転。ランチタイムも近所の会社員でにぎわう。
マレーシアは、マレー系や中国系、インド系などが同居する多民族国家ゆえに、よそから持ち込んだ料理が名物になることもある。中国・海南島の移民が伝えた「海南チキンライス」もその一つ。
鶏肉のゆで汁に、バターや香草を加えてご飯を炊く。残りの汁はチキンスープに。鶏肉はガーリックオイルをかけ、しょうゆ、唐辛子、ショウガのソースをかけて、丸めたご飯に添えてできあがり。マイルドな辛さに、ネギの香りが利いて、食べるほどに食欲が増す。常夏の国で、いかにも好まれそうな味だ。
母国の魅力を伝える一方で、日本の良さを後輩たちに教えたいという。「アジアに愛される日本にするのが、僕の夢です」