キーンと冷やしてグィっと飲めれば最高――ベルギービールは、そんな単純なイメージに収まらない。銘柄は少なく見積もっても800種類。「これからの季節にピッタリのものを」という注文にも、オレンジピールとハーブが香る「ヒューガルデン・ホワイト」に、サクランボの優しい甘さが広がる「ティママン・クリーク」、酸味がきいた「ブーン・グース」……と、豊かなラインナップで応えてくれる。
「それぞれに専用グラスもあって、勉強好きな人に教えると、どんどんはまっていきます」。ベルギービール広報センターの佐藤ひとみさんが笑う。「センター」といっても、スタッフは佐藤さん1人。本国のベルギービール醸造所組合の意を受けて、日本での広報活動に奔走する。
サッカーのワールドカップが開かれた、02年。日本の対戦相手がベルギーに決まると、東京・神田のベルギー料理店「シャンドゥソレイユ」に取材が殺到した。「赤い悪魔」の異名を持つベルギー代表を飲み倒せとばかりに、「デュベル(悪魔)」という名のビールがメディアで取り上げられる。見た目は普通だが、「アルコール度数が高くて、修業していたベルギーの店で『知らずに3杯飲めば倒れる』と教わったビールですよ」と、オーナーシェフの原田延彰さん。傍らで佐藤さんが、「アルコールが低いものから順に飲むのが基本」と続ける。
ベルギービールの人気はまだ定着していない。それでも佐藤さんは言う。「知れば、みんな絶対好きになる」。この仕事を引き受ける動機にもなった、強い思いだ。
いま力を入れるのが「フルーツビール」。ピーチやカシスのジュースを混ぜた、カクテル感覚のビールだ。アルコール度数も低く、健康志向が高まるベルギーでメジャーになりつつある。「カフェで、ミネラルウオーターやジュースと同じくらい気軽に飲まれる存在に」。佐藤さんは販売店に売り込む。「伝道師」としての使命は、終わらない。