「世界一」を集めたギネスブック。それを生み出したビールメーカー「ギネス」の、なめらかな口当たりの黒ビールは、世界に知られるアイルランドの名物だ。なのに料理となると、日本での知名度は何とも心細い。「確かにアイルランドは小さな国です。歴史を振り返っても常に大国イギリスの影響下にありましたからね」と、ジョン・マカヴォイさん(42)は言う。
でも豊かな食文化があるんです、それを知ってもらいたいんですよ。そう付け加えるのも忘れない。料理人、そしてアイリッシュパブ「イニッシュモア」のコンサルタントとして、アイルランドの伝統の味を日本に紹介するジョンさん。ラムと野菜のアイリッシュ・シチュー、ソーセージやベーコンを煮込んだダブリン市民のお袋の味「ダブリン・コドル」など、お国の名物料理を次々と挙げてみせる。
イギリスの食文化と重なる面もあるが、違いにはこだわる。たとえば「シェパーズ・パイ」。羊のひき肉とマッシュポテトをオーブンで焼いた料理で、イギリスでは牛肉を使うことも珍しくない。「でも、それは別物ですよ。牛の世話をするシェパード(羊飼い)なんて、見たことないでしょう?」
本場のシェパーズ・パイは、表面はカリッとしていて、なのに肉汁がポテトに染みこんでいるから、とろりとした舌触り。塩味の利いた肉との相性も抜群で、思わず「ギネス」に手が伸びる。
ジョンさんはイギリス生まれだが、両親がアイルランド人。子どもの頃、夏休みはアイルランドに渡って祖父母の家で過ごした。家事を切り盛りする祖母は料理上手で、いろいろなレシピを教えてくれた。母国イギリスと同様にアイルランドを愛する気持ちは、焼きたてのパンやスープの香りが漂う台所で育まれたものだ。
日本人女性と結婚したのが縁で来日して、はや5年。「アイルランドの味を、ギネスと同じくらい有名にしたいですね」