「夏だからコレかな」。港町横浜のギリシャ料理店「スパルタ」で、シェフ・阿久津泰之さん(55)におすすめを、とお願いすると、牛肉の肉団子「ユワレラキア」が出てきた。地中海のそよ風のようにさわやかなレモン色のソースが、なるほど、夏っぽい。
ソースは、卵の黄身とレモン汁を合わせてといたものに、肉団子をゆでた鶏ガラスープを加えて作る。沸騰したスープを一気に足すと卵が固まってしまうから、少しずつ加える。
ソースを一さじ口に運ぶ。レモンの酸味が口中に広がった。酸味といっても、刺激的なすっぱさではない。クリーム類を使っていないのに、クリーミー。卵や肉のエキスもしみ出し、マイルドに仕上がっている。さっぱりしていて、食欲をそそられる。
ギリシャ料理には、オリーブオイルをたっぷり使う。これと相性のいいレモンも、欠かせない食材の一つだ。揚げ物にかけたり、肉の下味に使ったり、煮込み料理にも入れる。「どの家の庭にも、レモンの木が植わってますよ」と阿久津さん。一人あたりの消費量は、日本の20倍ともいわれている。
「スパルタ」の創業は1953年。日本人女性と結婚し、横浜に住んでいたギリシャの貨物船員、イリアス・スカンゾスさんが開いた。ちょうど、朝鮮戦争の時代。街には、国連軍など外国人がたくさんいた。「新鮮な魚を食べたい」という彼らのリクエストに応え、スカンゾスさんは自宅で料理をふるまった。これが、レストラン開業のきっかけになった。
阿久津さんは28歳から彼の下で修業を積み、6年前に3代目を継いだ。ギリシャ一筋30年。本国の料理の流行に遅れないように、年に2回はギリシャを訪れ、レストラン散策や食材探しをする。「定休日がないのは、ここで一気に休むため」と笑う。下積みは長かったが、「好きだから、苦労はなかったですよ」。陽気な性格も、本場仕込みだ。