「はーい、おじょうちゃん。食べて、食べて」
軽快なステップを踏みながら、サダットレザイ・モハメドアリ(略称アリ)さん(42)が次々と料理を運んでくる。イランじゃ牛より貴重な羊肉の串焼きだぁ、ケーキに見えるけど実はポテトのサラダだよ――。おまけに焼きたてクッキーはいかが。あっという間にテーブルが埋め尽くされた。
イラン料理「ザクロ」の看板メニュー「食べきれないコース」は、文字通り、食べきれないほどの料理が出てくる。
なかでもコリアンダーやニラなど数種の野菜や豆、羊肉を煮込んだ「ゴルメ サブジィ」は、週に一、二度は食べるという一般的な家庭料理。丸ごと加えたライムの酸味が食欲をそそる。砂漠の国では、これが乾いたノドを潤す。「この一皿がないと、ホームシックになっちゃうよ」
じゅうたんに囲まれた店内は、おばあちゃんの家に来たかのように不思議と落ち着く。
イランには「家に来るお客様は、神様の友達」という言い伝えがあるという。それほど裕福な家庭ではなかったアリさんの家にもカギをかけられた部屋があり、来客があるときにだけ扉が開かれた。料理に使うトマトひとつとっても、ひと山買った中から、一番いいものを選ぶ。「もてなしの心」が、口に出さずとも伝わってきそうだ。
エキゾチックなアラブ音楽が流れ出し、ベリーダンスのショーが始まった。料理に夢中だった客も踊りの輪に加わる。ネクタイを締めたサラリーマンが真っ赤な民族衣装のドレスを身にまとっている。
店を構えて8年余り。この店が縁で23人が結婚した。うち、イラン人と結婚した日本人女性は15人いるという。
日暮里に面白い人がいると聞いて会いに来る人もいれば、イランってどんな国だろうと料理を食べに来てくれる人もいる。
「政治の大使は港区にいるけど、食の大使はぼくかな」