終戦まもなくの47年(昭和22年)から続く老舗(しにせ)の台湾料理店「山珍居」(さんちんきょ)。ここでは、「カラスミ焼飯(やきめし)」が名物のひとつだ。
チャーハンの中にほぐしたカラスミが入っている。ほおばると、すじこに似た独特の風味が広がる。添えられた切り身は、しょっぱさとねっとりした食感でやみつきになる。ごはんにも合うが、酒との相性もよさそうだ。
台湾では、土産物として、また料理店で見かけるだけでなく、旧正月のごちそうだという。
ここのお手製のカラスミは塩しか使わない。仕込むのは毎年10月中旬ごろ。築地で仕入れたボラの卵巣に塩をまぶして2日間ほど板の間にはさんで寝かせ、10日間ほど店の屋上で天日干しする。完成して1、2カ月が一番おいしいという。
さまざまな塩を試してみたが、「結局は作り方」という結論に至った。夜中、板に挟んでいるのが崩れていないか、様子をひんぱんに見たり、干す際には日照り具合によって屋内に避難させたりするなど、「大切に育てる」ことが決め手だ。
「子どもを育てるときほどじゃないけどね」と黄善徹(こうぜんてつ)さん(61)。よく江戸っ子に間違われるというが、台湾からの2世。厨房(ちゅうぼう)では無口でも、いったんしゃべり出すと止まらない。
前はよく落語に通っていたというだけあって、そのしゃべり方はまるで噺家(はなしか)だ。「今の趣味は、プールで泳ぎながらぶくぶく独り言を言うこと」などと、楽しい話がポンポン飛び出す。
中学生のころから先代にしごかれ、本場台湾の味を徹底的にたたきこまれた。
店には漫画家や作家などのサインがずらりと並ぶ。手塚治虫、赤塚不二夫、星新一、光瀬龍などが常連だった。
「先代は話上手だから、おもしろい人がいるっていうことで集まってきたようです」
味もキャラクターも受け継いでいる。