400度にもなる土製の釜「タンドール」。底にじかに入れた炭が、食材を焼き上げる。
東京・銀座のインド料理店「カイバル」は、タンドール料理の専門店。厨房(ちゅうぼう)には、大人の腰丈ほどもあるタンドールが二つ置かれている。使用中はフタを閉めるため、炭の香りで風味が増す。オーブンと薫製器が合わさったような調理器具だ。
タンドール料理は現地でもレストランなどで食べる。「これほど大きな釜は、普通の家庭には置けないですよ」と支配人の坂木匡志さん(39)。イスラム王朝がインドを支配した時に伝えられたともいわれ、北インド地方の料理として広く食されている。「インドには、大別してカレーシェフとタンドールシェフがいる。割合はカレー7、タンドール3ぐらい」と坂木さんは説明する。
タンドールで焼く食材は、肉や魚、ナンなどさまざま。宗教上の理由で肉が食べられない人は、これで野菜を焼く。メニューにも、カリフラワーやポテト、エビの文字が並ぶ。
なかでも店の看板料理は、鶏肉の「タンドーリチキン」だ。
一カ月に一度、交代で里帰りするインド人シェフたちが、現地でなければ入手できない赤唐辛子を調達してくる。これに数種類のスパイスを加え、ガーゼでこした自家製ヨーグルトにまぜ合わせた中に、酢やニンニクなどにつけた骨付きチキンを3、4時間つけ込む。シークと呼ばれる約1メートルの鉄串に刺し、タンドールで焼けば、出来上がり。かぶりつくと、口の中にうまみと深みのある辛さがピリリと広がる。
炭火の釜から、「ここぞ」というタイミングで食材を取り出すには、長年の経験が必要だ。同店では、現地からやってきたこの道10年以上のシェフ3人が働く。
その一人、バハドゥール・カトリさん(31)の腕には、過って釜に触れて出来たやけどの跡がいくつもあった。タンドール職人としての勲章かも知れない。