ヤシの木に太陽が降り注ぐ昼下がり。子どもたちは学校から、大人たちは仕事場から、腹ぺこになって家路を急ぐ。食卓には庭で採れたカボチャの煮物や野菜いためなどの大皿料理が並ぶ。家族そろった昼食。「食後は、のんびりお昼寝です」。東京・代々木のカンボジア料理店「アンコールワット」店長、ゴ・ミントンさん(71)は言う。
強い日差しをさけて、屋内でゆっくり過ごすのがカンボジアの日常光景だ。
そんな昼のおかずの定番メニューに「アモック」がある。ココナツミルクをベースにした魚料理で、バナナの葉で巻いて約20分ほど蒸す。
口に入れるとふんわりとした食感。レモングラスやパクチー、唐辛子など、ふんだんに使った香辛料が、ココナツの甘みをほどよく引き締め、魚のうまみを引き立てる。「店ではサケを使っていますが、現地では白身の川魚を使うのが一般的。香辛料もたくさん使うので、もうちょっと辛いです」
ゴさんが代々木に店を構えたのは25年前。今ほどアジア料理の店はなく、開店日にはテレビや雑誌の取材が押し寄せた。15坪の小さな店は客ですぐにいっぱいになった。
だが、次第に客足が遠のく。「お客に頼み込んで理由を聞いてみたところ、香りのきついパクチーはダメ。唐辛子の辛いのもダメと言われました」
客にアドバイスをしてもらいながら、日本人の舌に合う味を研究した。1年後、「雪の日にもかかわらず、お客さんが傘をさしながら並んでいてね。あのときはうれしかった」。カンボジアを旅した人が、やっぱりここの味が落ち着く、と立ち寄ることもある。
現在は場所を移して、店も広くした。ランチタイムの客が100人を超えることもある。
「カンボジアにいた頃のように、ゆっくり昼寝はしていられないけれど」。ゴさんは忙しそうに働きながら、笑って言った。