異国の地に住むシンガポール人がホームシックになるという料理がある。屋台が軒を連ねる現地の店で、必ずといっていいほど目にするローカルフード「ラクサ」が、それだ。
中国系移民とマレー系先住民の文化が融合して生まれたプラナカン料理(別名ニョニャ料理)のひとつで、定番の太めのビーフンが入ったスープ麺(めん)。干しエビでダシをとったスープにチリペーストやココナツミルクが絡み合い、こくのある甘みとピリッとした辛さが舌をとろかす。
「年末、国に帰って真っ先に食べました」と、「新東記」オーナーのパトリシア・チアさん。
子どもが3〜4歳に育つと、親がこぞって食べさせ、「うちの子はラクサが食べられるのよ」と自慢するという。
地元では、油揚げやゆで卵、エビなどの具材をバイキング形式で麺の上に山盛りにのせて食べる店もある。ココナツの割合が多い「レマラクサ」、香辛料を多く使った「カレーラクサ」など細かく分けるとその数は十数種にも及ぶ。
チアさんの実家は代々続く料理店で、幼い頃は厨房(ちゅうぼう)を駆け回って過ごした。
20年前に来日し、日本の企業で働くかたわら、本格的に料理を学んだ。
05年のオープンまで2年間は仕事も辞めて、料理に合う食材を求めて日本各地を訪ねた。うまい魚があると聞けば北海道に飛び、いい肉があると聞けば青森の養鶏農家に足を運んだ。
「自分の料理に生かそうと、食べて食べて食べ続けました」
そのかいあってか、昨年、同国政府観光局が主催する美味(おい)しいシンガポール料理店の認定制度「シンガポール美食発見!」の第1号店に選ばれた。店にはラクサに魅せられ、週4日通う客もいるという。
「食べて帰って、家で味を思い出して、次の日また来てしまうんですって」