つやつやとあめ色に輝く北京ダックがワゴンで運ばれてくると、どのテーブルからも歓声が上がる。そのものから発する圧倒的な存在感。美味への期待感。
北京ダックの老舗(しにせ)「全聚徳(ぜんしゅとく)」は東京・銀座と新宿に店を構える。北京では140年以上の歴史を持つ有名店だ。日本では皮だけを食べるスタイルが一般的だが、ここでは肉もたっぷり盛りつけ、物足りなさを感じさせない。
「北京と言って思い出すのは、北京ダックでしょう?」。そう話す肖宝林(しょうほうりん)さんは北京ダック専門の料理人だ。
「焼くのが許されるまで4、5年はかかりました」。同店によると、肖さんはその中でも数少ない一級の調理師。長年経験を積み、試験に合格して初めて認められる資格なのだという。
丸焼き。そう言ってしまえば豪快に聞こえるが、北京ダックには念入りな下準備と繊細な工夫が詰め込まれている。
美しく焼き上げるために脂肪と皮の間に空気を入れ、水あめをぬる。パリッとした皮の食感を出すように乾燥室で乾燥、熟成させるなどいくつもの工程がある。
こうして加工されたアヒルは窯で焼き上げられる。焼き時間は50分ほど。むらのないように細やかに手を加える。
一番おいしい、という胸の皮を薄く切り、砂糖をかけて出す。「これを食べれば、出来不出来がすぐにわかる」と肖さん。口に入れた瞬間、じゅわっと脂のうまみが広がる。かみしめているうちに、肉の部分もサクサクと切り分けられていく。
甜麺醤(てんめんじゃん)をつけ、薄い小麦粉の皮で巻いてかじりつく。濃厚な肉の味。かすかに癖のある肉の香りがますます食欲をそそる。
北京では、日本人にとっての刺し身と同じくらい身近な食べ物なのだと聞いた。「世界三大料理のひとつが中国料理。その首都北京の代表料理が北京ダック。まさに中国一、世界最高の料理です」。肖さんは胸を張った。