気さくな笑顔で自慢の食材を紹介しつつ、客との会話を楽しむピエール・プリジャンさん(60)。東京・南青山のフランス料理レストラン「シェ・ピエール」のオーナーシェフだ。
1973年開店。フランス食品振興会によると、「日本に現在ある仏料理店のうち、最初に店を始めた仏人の一人」という。
仏料理はホテルで食べる高級料理と認識されていた時代だった。今でこそ本国の食材も入手しやすいが、当時は難しかった。カモを中国産で代用したり、鶏をニュージーランドから取り寄せたり。苦労のかいあって、やがて文化人や芸術家も集う人気店になった。パリから帰国したファッションデザイナーの森英恵さんも、本物の味を求めて訪れたという。
「ブイヤベース」は30年以上続く看板メニュー。魚のアラを1時間以上煮込んでうまみを凝縮させた出し汁「フュメ・ド・ポワソン」を作る。赤ピーマンや卵黄、唐辛子などで作ったソース「ルイユ」を加え、火を通した魚介類と合わせて小鍋に盛る。
オマールエビやムール貝、カサゴなどが入ったオレンジ色のスープは目にも鮮やか。まろやかな舌触りだが、舌先でほのかに感じるピリリとした辛さに、また次のひとさじが欲しくなる。
元々は南仏の港町マルセイユに伝わる漁師料理だ。売り物にならない魚をぶつ切りにして煮込んだ素朴なスープだったが、時代を経て貝類や高級食材も使うようになった。本国では今でも、魚を骨付きのまま調理して味わう。しかしプリジャンさんは、日本人が食べやすいように、骨を取り除いた切り身の魚を使い、手間ひまかけて丁寧に調理する。
店内には、常連客が描いたプリジャンさんの似顔絵が飾られていた。壁に掛かる絵画も多くは客から贈られたもの。「この店を愛してくれるお客さんがいるから、店を大きくする気も増やす気もない。三つ星もいらない。流れ星みたいに自由であれば幸せ」