レバノンの前菜は豊富だ。レストランに行くと、オーダー前から15〜20種類の前菜「メッツェ」(以下料理名は口語表現)がテーブルに並べられるという。冷たいものと温かいものの2種類に分けられる。
「全部で70種類以上はあるといわれています」と横浜市中区のアラビア料理店「アル・アイン」のシェフ、ジアード・カラムさん(39)は話す。レバノンの国立の料理学校出身。在日本クウェート大使館でコックを務め、95年に店を構えた。
代表的な冷たいメッツェは豆や野菜のペーストだ。ちぎったアラビアパンにつけて食べる。
レバノンの食事の雰囲気がひと通り味わえる「フェニキアセット」は、3種のペーストに始まる。ヒヨコ豆、レモン、ガーリックを使った「ホンモス」、焼きナス、レモン、ゴマを使った「ムタバル」、ヨーグルトから作った「ラブネ」。薄味で、素材の味が楽しめる。
レバノン料理は、ハーブを多く用い、辛くない。地中海に面し、水に恵まれているので農作物も豊かだ。昔から西洋や周辺国との接触が多いため料理が洗練されていった。湾岸諸国の一流ホテルのメーンダイニングにはレバノン料理のレストランが多いといわれる。ヘルシーなので、欧米などで「ダイエット食」として注目されているという。
レバノンでは、大勢でレストランに行く。3、4時間かけておしゃべりやショーを楽しみながら、ゆっくり、たくさん食べるのが一般的なのだそうだ。
「日本人だったら、次の日仕事だからと、ぱぱっと夕飯をすませてしまう人も多いけれど、レバノン人は食べることをエンジョイしていますね」とカラムさん。「日本では1人で食べている人をよく見かけますが、友だちいないのかな、と思ってしまいます」
豊富な種類の前菜は、大勢で長い時間をかけて食事を楽しむためにあるのかもしれない。