赤と緑色のピーマン。黄色の薄焼き卵、黒ごまを混ぜて焼いた卵の白身、焦げ茶色の牛肉。色鮮やかな材料を細長く切って、エビと牛肉、大根でだしをとったスープの上に放射線状に並べる。クルミや松の実、ギンナンをあしらった華やかな鍋「神仙炉(シンセンロ)」。朝鮮王朝時代の宮廷料理の代表格だ。
スープはやさしい甘みがあり、繊細な味わい。この時代、各地から献上された食材で最高の料理人が研究を重ね作りあげた。「韓国の料理は焼き肉や辛いものだけではないんです」。韓国会席「百済」のオーナー、庄田雅恵さん(52)は話す。
約30年前に韓国から日本に嫁いできた。都内で86年、焼き肉店を開店。88年のソウル夏季オリンピックをきっかけに、焼き肉ブームの波にのった。さらに、02年の日韓共催サッカーW杯、ドラマ「冬のソナタ」のヒットで、韓国食に注目が集まり、チヂミ、チゲ、チャプチェ、トッポギなど家庭料理の名前も知られるようになった。
「もっと祖国の料理の奥深さを知ってほしい」。そんな思いから、韓国人料理人4人と昨年7月、伝統的な宮廷料理を現代風にアレンジした店を開いた。
朝鮮半島に唐辛子が伝来したのは17世紀初めといわれる。このため、宮廷料理の特徴は、味が薄く辛くない。香りや風味を補うためにネギ、春菊、セリなどの香味野菜を使ったり、塩辛で味付けしたり。肉や野菜を細切りにして皮で包む九節板(クジョルバン)、彩り豊かな野菜をのせたエビ焼き、チュク(おかゆ)、肉や海産物に衣をつけて焼いたジョン−−。「薬食同源」の思想に基づく伝統料理は、現代の韓国でも接待の場や祝いの席で食されることが多い。
東京・新宿。路地裏の一軒家の明かりが、街路樹に囲まれた石畳に映える。「百済」は、空き家になっていた築約50年のアパートを韓国風に改築した。庄田さんは「ここに来るお客様はみなさん、私にとって『王様、王妃様』なんです」と笑う。