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2008.3.6(木)更新  秋元 康 ナビゲート 夢中力/剰余に人生の喜びを求めて
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秋元康 ナビゲート 夢中力
 
剰余に人生の喜びを求めて

ピアノ   建築家 竹山聖さん

竹山聖さん
「あれ、今日は鍵盤が重いですねえ」。竹山さんが設計した知人の音楽室でピアノを弾く=東京都大田区の代田邸で

 それまでの「旅館」のイメージを覆す斬新な設計で話題を呼んだ箱根の強羅花壇は、当時34歳の竹山さんが手がけた。1989年、バブルの真っただ中だった。当時は、今日は図書館でも明日はディスコに変わっているかもしれないという浮沈が激しい時代。それでも竹山さんは「廃虚になっても、美しい廃虚として残る構造体をつくりたいと思っていた」と、様々な建築物を世に送り出した。

 竹山さんが建築をやりたいと思ったのは高校2年の頃。もともと絵を描くのが好きだったし、カリキュラムには絵画実習や歴史もある。建築は工学部の中でも著しく文系、芸術系寄りだと思ったからだ。

 「人間は理性だけでなく、感情とか欲望という剰余の部分に人生の喜びのかなりの部分が支配されている。そこに音楽とか絵画とか建築とかが入ってきて、人間の生をいかにより充実させるかという世界を形作ってきた」

 そんな竹山さんの「剰余の世界」を満たしてくれるのは音楽、とりわけ今はピアノだ。母親がピアノを弾いていたこともあり、竹山さんも幼稚園の時にピアノを習った。が、小学校1年でやめたのは「母親のプレッシャーがきつかったから。『やれ』と言われるとやりたくなくなるんだよね」。小学校高学年では合唱をやり、中学校では仲間とバンドを組んで、コンテストに出たりした。大学ではコントラバスを弾いていたというから、音楽は常に竹山さんの生活に寄り添ってきたと言える。

 今年に入って、時間さえあれば午前中はピアノに向かっている。知人が主催する音楽会でドビュッシーを発表するために練習に余念がないのだ。2月に公開された映画では美術監督も務めた。本業の建築のセンスには及ぶはずもないが、人生の剰余を存分に楽しもうという竹山さんの「遊び心」は見習いたい。

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 たけやま・せい
 1954年大阪生まれ。京大工学部建築学科を卒業後、東大大学院在学中に「設計組織アモルフ」創設。「OXY乃木坂」「べにや無何有」「大阪府立北野高校」など数多くの作品を発表。92年から京大工学部准教授。著書に「ぼんやり空でも眺めてみようか」(彰国社)など。
プロには出せない味もある

 竹山聖の建築物には、色気がある。コンクリートの無機質な壁であっても、生き物のような息遣いを感じるのだ。人の手によって造られたぬくもりがある。CGがコンピューターで描かれたものであっても、そのマウスを動かしているのは人間であるように……。

 彼と初めて会ったのは、どこかのバーだった。知人に紹介された時、彼は酩酊(めいてい)状態で、何度もグラスの赤ワインをこぼした。その時、彼が着ていた白いシャツやズボンには、いくつも赤い染みができていたことを覚えている。インテリで二枚目で売れっ子の建築家なのに、なんてだらしない人なのだろうと思った。

 本人は、そんな赤ワインの染みなど気にもしない様子で「楽しいね」を連発していた。その後、彼と親交を深めるにつれ、わかったことがある。変な表現かもしれないが、彼は、人付き合いも手作りなのだ。しゃくし定規な常識や理屈ではなく、ありのままの感情の輪郭を何度もデッサンしながら、人間関係を築き上げて行く。

 趣味がピアノだと言うが、本当は、うまく弾きたいなどとは思っていないのだろう。むしろ、うまく弾けずに、外した音が好きなような気がする。プロのピアニストには絶対に出せないミストーン。

 鍵盤は常識や理屈であり、指は感情だ。ミストーンは、彼の白いシャツやズボンに残った赤ワインの染みに似ている。建築家竹山聖も、思わずこぼした赤ワインの染みの数だけ色気がある。

秋元 康さん

 あきもと・やすし
 1956年、東京生まれ、作詞家。4月1日付で京都造形芸術大副学長に就任。
◆窯焚―KAMATAKI
 焼き物の里、信楽を舞台に、著名な陶芸家と心を閉ざしたカナダ人青年との交流を描いたカナダ・日本合同作品。クロード・ガニオン監督。美術監督を竹山さんが務めている。新宿バルト9で公開中。詳細はhttp://www.kamatakimovie.com

◆亜麻色の髪の乙女〜月の光/ドビュッシー:ピアノ名曲集(ユニバーサルミュージック、1800円)
 演奏はアレクシス・ワイセンベルク。竹山さんはこのCDに収録されている「グラドゥス・アド・パルナッスム博士」を練習中。

(2008年3月6日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)
 

 

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