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2008.8.7(木)更新  秋元 康 ナビゲート 夢中力/笑いで時代と格闘する日々
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秋元康 ナビゲート 夢中力
 
笑いで時代と格闘する日々

無声映画   劇作家・演出家 ケラリーノ・サンドロヴィッチさん

ケラリーノ・サンドロヴィッチさん
ラリー・シモン、ハリー・ラングドンなど、日本ではマイナーな喜劇役者の名前が次々と出てくる=東京都渋谷区

 モノクロの世界で、大きな身ぶりの人たちがせわしなく動く様子は「どこか非現実的で、夢みたいだった」。アニメやSFに夢中になる年頃に、ケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)さんは無声映画をむさぼるように見た。しかしビデオが普及していない時代。中学生のKERA少年は、海外からフィルムをせっせと取り寄せていた。

 「渋谷にあったフィルム輸入業者へ通い、無理やりお願いして映写機で見せてもらっていました」

 やがて喜劇映画研究会を立ち上げ、上映会を主催した。珍しい作品を見るために、学ラン姿で歌舞伎町の映画館に前日の夜から並んだことも。もっとも徹夜組は、KERAさんひとりだったのだが。

 少年の目には、人情味あふれるチャプリンが計算高く見え、悪夢的なキートンは異彩を放っていた。孤独に奮闘する姿に心を打たれた。KERAさん独特のナンセンスコメディやブラックな笑いは、彼らの存在なくして語れない。

 「笑いを武器にすると、何でもできる気がする」。自らも創作活動を始めると、言いたいことを正面切って訴えるよりも、シニカルな目線で笑いを含めたほうが伝わりやすいことを実感した。一方で、ある種の覚悟も必要だった。「笑いを作る人間は、世の中に笑い飛ばしてはいけないものなどない、というスタンスで臨まないと」

 新作舞台「シャープさんフラットさん」では、笑いを追求する作家の苦悶(くもん)を描く。劇中の人物同様、KERAさんも笑いという巨大な真実と格闘する日々。しかしふと立ち止まり、小難しい理屈を排除して無声映画のパワーに触れると、心が少し軽くなるのだ。

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 けらりーの・さんどろびっち 
 1963年生まれ、東京都出身。82年、バンド「有頂天」を結成。劇団「ナイロン100℃」主宰。映画やドラマも手がける。9月16日(火)から10月19日(日)まで下北沢本多劇場で行われる「シャープさんフラットさん」は、同劇団の15周年記念公演(http://www.cubeinc.co.jp)。
想像力は人生の地図になる

 20年以上前、インディーズに「有頂天」という人気バンドがいた。ケラは、「有頂天」のボーカルであり、リーダーだった。ケラがメジャーでソロデビューすることになり、僕にそのプロデュースをお願いしたいという話が来た。

 インディーズの世界でカリスマのようなケラが、当時、おニャン子クラブやとんねるずで馬鹿なことをやっていた僕とやりたいと思ったのはなぜだろう?

 聞いてみると、彼が答えた。「面白そうだから」。どんな理屈っぽいことを言うのかと思っていたので拍子抜けした。しばらくして、ケラはバンドを解散し、「劇団健康」「ナイロン100℃」と演劇の世界にのめり込んでゆくのだが、理由を聞けば、また、「面白そうだから」と答えただろう。

 「無声映画」の、声なき人間たちの大げさな身ぶりの面白さは、時に、今のCGを駆使したハリウッドの大作を凌(しの)ぐ。それは、無声映画には観客の想像力がプラスされるからだ。

 そこで、僕は気づいた。ケラが惹(ひ)かれるものは、いつも、「面白そうなもの」であって、「面白いもの」ではない。自ら枷(かせ)を作り、あとは、自分の想像力で補おうとする。飛車角落としの発想の原点は、無声映画にあるのだと知った。ケラ流イメージトレーニングなのかもしれない。

秋元 康さん

 あきもと・やすし
 1956年、東京生まれ、作詞家。4月1日付で京都造形芸術大副学長に就任。
 ◆「SLAPSTICKS」(ポニーキャニオン、5800円)。
 KERAさんが作・演出を手がけ、03年に上演された舞台のDVD。喜劇俳優ロスコー・アーバックルをモチーフに、無声映画に携わる役者やスタッフの悲喜こもごもを描いている。出演はオダギリジョー、ともさかりえ、古田新太など。

 ◆バスター・キートン
 チャーリー・チャプリン、ハロルド・ロイドと並ぶ、世界の三大喜劇王。無表情に繰り出すアクロバティックな動きが特徴。代表作に「キートンの探偵学入門」「キートンの大列車追跡」。

(2008年8月7日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)
 

 

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