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アートリップ

Book climbing 
上原耕生作(茨城県取手市)

団地の壁に 暮らし映す

作品に影が落ちる効果も考え、立体的に制作=横関一浩撮影
作品に影が落ちる効果も考え、立体的に制作=横関一浩撮影
作品に影が落ちる効果も考え、立体的に制作=横関一浩撮影 洗濯物が干されている風景を描いた「Life style」=横関一浩撮影

 本棚で本を探す人、腰掛けてページをめくる人。8階建ての建物の壁面に描かれた「本のある風景」だ。利根川を望む緑豊かな台地に立つ戸頭団地。構内の遊歩道を進むと、こうした色鮮やかな壁画が次々に現れた。

 作品の原案は、近くに住む村田良吉さん(76)のエピソードだ。定年後、団地内の図書室に通うのが日課だという。「『お墓とこの作品はずっと残るなんていいなあ』と友人に言われてね」と誇らしげに絵を眺める。

 作品群は今年8月、全11棟15面に完成した。2013年に始まった、UR都市機構とTAP(取手アートプロジェクト)の共同プロジェクトだ。外壁補修工事に合わせ、地域住民から団地のエピソードを募集した。

 アーティストの上原耕生(こうお)さん(34)は、寄せられた90通から「隣人とのつながり」「みんなの好きな場所」をテーマに絵を構想。塗り替えられた壁に、ここで暮らす人々の物語を残そうと制作したという。本作含む15作品のタイトルは、「IN MY GARDEN」。「窓を開けたら、自分の庭にアートが見える。それくらい身近に感じてほしい」との願いを込めた。

 宮内克美さん(53)は、団地内を散歩中に、パン屋からいい香りがしたという思い出が作品化された。「殺風景だった場所が芸術的になりましたね」。団地の暮らしに新たな豊かさが生まれていた。

(石井広子)

 戸頭団地

 1975~92年に建設された総戸数1187戸の大規模団地。都心のベッドタウンとして発展してきた。外壁アートの制作は、上原さんの母校・東京芸術大の学生や市民らも参加。フッ素樹脂塗料で描き、立体部分には発泡ポリスチレンを使用した。各作品には、住民のエピソードが記された銘板が添えられている。

 《作品へのアクセス》 関東鉄道戸頭駅から徒歩5分。


ぶらり発見

ぷち栗

 戸頭駅から徒歩10分の小川製菓(TEL0297・78・4339)は、甘納豆の専門店。自家製の糖蜜をしみ込ませたほどよい甘さと、ふっくらとした食感が特長。名物の「ぷち栗」(写真、小324円、大540円)は、天津甘栗を甘納豆に仕立てている。小豆、大正金時、黒大豆を使った品や、贈答用の化粧箱入りも。

 取手駅からバスで約15分の東京芸術大取手キャンパス(TEL050・5525・2543)では、12月2日(金)~4日(日)、午前10時~午後5時、取手アートパスを開催。映像や写真、絵画、インスタレーションなど約150点を展示する。

(2016年11月29日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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