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アートリップ

地球・一個の球体のために 
岡本敦生(あつお)作
(広島県三原市、広島空港)

地面の向こう側を実感

手前はエジプトを指す円柱。広場は夜間ライトアップされる
手前はエジプトを指す円柱。広場は夜間ライトアップされる
手前はエジプトを指す円柱。広場は夜間ライトアップされる 各円柱には指し示す場所と、その地点までの距離が記されている

 広島空港前の広場。人の背丈よりも大きい円柱が、石畳の地面に突き刺さる。

 ほぼ垂直に立つものや、地を這(は)うように横を向くもの。様々な角度で立つ32本の円柱は、世界各地の国際空港や北極・南極点に向けて設置されている。

 1993年の空港開港に合わせ、「平和な広島」にふさわしいモニュメントとして制作された作品だ。作者は、広島市出身の彫刻家・岡本敦生さん(65)。「水平線の彼方(かなた)でなく、地面の向こう側に世界の国々があると実感できれば、この丸い地球を立体的に、より身近に感じられると思った」と話す。

 地球は正確には楕円(だえん)体のため、円柱の角度計算は難航したが、各地点の緯度・経度、標高から、岡本さん自ら算出した。

 各円柱は直径70センチ、長さ4.5メートル。指し示す地点周辺で採れる石や、その土地から連想する金属を使用している。例えばケープタウン国際空港を指す円柱には、アフリカ産の黒御影石という具合だ。「様々な個性の円柱が、各地から広島に集まるイメージ。1本1本が、世界平和への祈りなんです」と岡本さん。

 一人の女性が、「香港の円柱」に座っていた。故郷から会いに来る母親を迎えに来た、中国南部・貴州省出身の留学生、王魯夢(ろむ)さん(24)。作品の意味を教えると、「偶然だね」と笑った。

(安達麻里子、写真も)

 広島空港

 1993年、広島市内から旧本郷町(現三原市)に移転する形で開港した。現在国内線、国際線ともに5路線を運航、年間270万人が利用する。路線拡大や交通利便性の向上など、空港の活性化を目的に、2021年をめどに空港民営化を検討中。

 県内への外国人観光客数は、14年に年間100万人を突破。瀬戸内しまなみ海道でのサイクリングが目的の観光客も多く、国際線ロビーに更衣室や自転車組み立て場を設置している。


ぶらり発見

タコだるま

 瀬戸内海有数のマダコの産地、三原。三原駅へは広島空港からリムジンバスで約40分。駅から徒歩5分のお食事処蔵(TEL0848・64・3200)で、「タコしゃぶ」(1000円)など多彩なタコ料理が味わえる。

 三原の伝統工芸といえば、豆絞りの鉢巻きが特徴の「三原だるま」=写真は「タコだるま」。駅から徒歩2分の三原だるま工房では、面相描きなどの制作体験ができる(約60分から、600円、要予約)。

 2月10日(金)~12日(日)、駅前一帯で、三原神明市を開催。高さ約4メートルの大だるまを飾り、約500の露店がだるまや植木を並べる。問い合わせはいずれも三原観光協会(67・5877)。

(2017年2月7日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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