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アートリップ

湘南台文化センター 
長谷川逸子作(神奈川県藤沢市)

未来へつなぐ「原っぱ」

細かな穴の開いた金属板「パンチングメタル」や、瓦、しっくいなどの素材を随所に使用=篠塚ようこ撮影
細かな穴の開いた金属板「パンチングメタル」や、瓦、しっくいなどの素材を随所に使用=篠塚ようこ撮影
細かな穴の開いた金属板「パンチングメタル」や、瓦、しっくいなどの素材を随所に使用=篠塚ようこ撮影 波の形をした日よけ=篠塚ようこ撮影

 地球を模したメタリックな球体。その真下から、瓦を重ねてできた「小川」が流れる。周辺に連なる塔の群れは、生い茂る木々のようでもある。

 近未来的な雰囲気の中にも、自然を感じさせる空間。ここは藤沢市の湘南台文化センター。公民館やこども館などが一体となり、1990年に全面開館した。コンペで選ばれた設計者の長谷川逸子さん(75)は「公共建築の閉鎖的で威張ったイメージを壊したかった」と語る。

 都心に隣接したベッドタウンの湘南台は、かつて田畑の広がる農村だった。センターの建設地は区画整理で切りひらかれた後も長らく空き地で、地域の住民が植物採集や散歩に訪れていたという。長谷川さんはそんな「自由に憩える原っぱのような空間」を残したいと思った。

 そこで示したのが、建物の延べ床面積の70%を地下室にし、地上に十分な広場を設けるという設計案。だが、地域の象徴である施設の大半を地下化することに難色を示す地元住民もいた。長谷川さんは、防音のメリットや地下への採光の工夫などを説明する対話集会を約50回も開き、理解を得ていった。

 完成したセンターの広場にはデザイン性に富んだ日よけやオブジェなど、散策を楽しませてくれる仕掛けが満載だ。夏休みの昼下がりに、児童らがトンボを見つけたり、元気に走り回ったりしていた。

(中村和歌菜)

 湘南台文化センター

 公民館や市民センターのほか、演劇やコンサートを上演する「市民シアター」、プラネタリウムを備えた「こども館」などからなる。ドーム型の市民シアターは「宇宙儀」、プラネタリウムが入る球体は「地球儀」と呼ばれる。広場では音楽会や天体観望会が催されることも。長谷川逸子さんはこども館の内部もプロデュースし、世界各国の民族衣装や楽器などに触れる体験型の展示室を作った。

 《アクセス》湘南台駅から徒歩5分。


ぶらり発見

磯サブレー

 湘南台文化センターから徒歩3分の和菓子屋清月(TEL0466・43・7285)の名物は、貝の形をした「磯サブレー」(写真、60円)。ほのかな甘みとサクサクした食感をお土産に。午前9時半~午後6時。(月)休み。

 六会日大前駅から徒歩3分の日本大学生物資源科学部のキャンパスは博物館(TEL84・3892)を併設する。家畜や野生動物の骨格標本、はくせいなどが並び、海洋生物の生体展示も。10時~4時。(日)(月)(祝)休み(9月11日までは(土)(日)休み、詳細はホームページで確認を)。

(2017年8月29日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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