読んでたのしい、当たってうれしい。

アートリップ

穹(そら)を擴(ひら)く 
池添博彦、池田緑、瀧川秀敏、中谷有逸、宮沢克忠作(北海道帯広市)

開拓の地 空に伸びる手

足元の銘板には制作者5人の名前が刻まれている=青木美伸撮影
足元の銘板には制作者5人の名前が刻まれている=青木美伸撮影
足元の銘板には制作者5人の名前が刻まれている=青木美伸撮影 シカの彫像は、市内にある菓子メーカー・六花亭帯広本店前と藤丸百貨店の前にも設置=青木美伸撮影

 夏の日差しが残る8月下旬。とかち帯広空港から帯広駅に向かうバスの車窓からは、牧草ロールが点在する平原が見えた。道路沿いには白樺(しらかば)の並木が続いている。駅の北側に到着すると、カップルが「あれなに?」と外を指さした。見やると、三つの「手」が快晴の空に向かって伸びていた。

 高さ約5メートルの鉄製の作品は、帯広商工会議所が2003年に創立80周年を記念し、地元の美術家や有識者5人に制作を依頼した。その1人、瀧川秀敏さん(64)は、「帯広は開拓の地。手は、森を切り開いてきた歴史を物語っています」と話す。

 帯広は、民間企業や本州からの移民によって、明治16(1883)年以降、本格的に開拓された。そんな歴史を背景に、作品は両端の二体に豊富な畑と水をイメージした模様を、真ん中は太陽を表す赤色を施した。コンピューターグラフィックスで模型を描き出し、作品が風景に溶け込むように試行錯誤を重ねたという。

 作品は、前年に開催し、オノ・ヨーコらが参加した帯広初の国際美術展「デメーテル」も刺激になったという。「国際的な作品に匹敵するようなものを作りたかった」と地元の美術家、中谷有逸さん(81)は笑う。

 取材を終えた帰りのバスから再び作品を見つめると、また来てねと「手」を振ってくれた気がした。

(吉田愛)

 帯広駅

 1905年に開業。現在の駅舎はJR根室線の高架化に伴い、96年に改築した。4600平方メートルある駅舎は「十勝の自然風土との調和」をコンセプトに、日高山脈と防風林を表現した外観が特徴。ガラス張りのホームからは、十勝平野が見える。駅を出た北口広場には、米の彫刻家グイン・メリル氏が制作したシカの彫像3体が並び、観光客を楽しませている。

 《アクセス》JR札幌駅から特急で約2時間半。とかち帯広空港からバスで約40分。


ぶらり発見

旅のはじまりのビール

 帯広駅からバスで約30分の十勝川温泉。植物成分が豊富に含まれた茶褐色の「モール温泉」で知られる。昨年開館したガーデンスパ十勝川温泉(TEL0155・46・2447)では、男女共に水着で入浴を楽しめる。ホットヨガや地元の食材を使った料理教室も(有料、要予約)。

 帯広駅から徒歩5分のHOTEL&CAFE NUPKA(ヌプカ、TEL20・2600)では、道東産の大麦を使用した旅のはじまりのビール写真、800円)が味わえる。同ビールと「帯広ビール」3種の飲み比べ(1400円)も。

(2017年9月5日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

今、あなたにオススメ

アートリップの新着記事

新着コラム