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アートリップ

見えない力 
高田洋一作(東京都千代田区)

空気をキャッチ、輪が変化

たそがれ時は白から金色に染まる=山本倫子撮影
たそがれ時は白から金色に染まる=山本倫子撮影
たそがれ時は白から金色に染まる=山本倫子撮影 1階入り口付近にある作品は二つのリングで構成。自動ドアが開く度にリズミカルに動く=山本倫子撮影

 東京・大手町。背広を着たビジネスマンが、高層ビル群の間を足早に歩いていく。その一つ、ガラス張りの日本経済新聞社東京本社ビルの3階にあがると、2階からの吹き抜けに不思議なオブジェが浮かんでいた。直径約2メートルの12個のリングが連なり、奥行き約6メートルのトンネルのような空間を作り出している。各リングは、それぞれが自由に動きを楽しんでいるようだ。

 2009年、日経本社ビル移転を機に、彫刻家の高田洋一さん(61)が、1階と3階に制作した作品の一つだ。骨組みをぐるりと囲む和紙が、空調や人の出入りで起こる風をとらえ、輪が上下にずれたり、回転したりする。複雑な動きのため、正面に立つと浮遊感に包まれる。風にあたって動くことで、身の回りにあたりまえにある空気の存在を提示するのだ。「僕たちは空気の海に暮らしている。自然の摂理を共有していることを伝えたい」と高田さんは語る。

 作品を選ぶコンペでは、繊細な動きをプレゼンのみで伝えることが難しかったため、審査員を個展に招き、作品を見てもらった。「見えない情報を可視化する新聞社の使命と、自然を目に見えるようにした作品のコンセプトが合致しました」とプロジェクトに関わった担当者は当時を振り返る。

 風で異なる表情を見せるリングは生き物さながら。ニュースのように日々変化している。

(佐藤直子)

 日本経済新聞社東京本社ビル

 2009年、大手町再開発の第一弾として建てられた。隣接するJAビル、経団連会館と低層階でつながり、共有スペースに地域貢献としてアートを設置した。ビルのコンセプトは「開放感と透明性」。エントランスでは、輪転機に新聞紙が流れる様子をイメージした全長130メートルの巨大オブジェ「メディアウオール」が出迎える。ビルの外観には、1枚が約200キログラムあるガラスを3862枚使用している。

 《アクセス》地下鉄大手町駅直結。


ぶらり発見

千代ちょこ

 日経本社ビルから徒歩3分、気象庁内の気象科学館(TEL03・3212・8341)は、天気予報のしくみや地震などの自然災害に対する防災知識が学べる。津波と通常の波との違いを見ることができる「津波シミュレーター」なども。午前10時~午後4時。

 同本社ビルから徒歩10分のパレスホテル東京・スイーツ&デリ(TEL3211・5315)では、江戸千代紙や着物、歌舞伎の化粧「くま取り」などの模様が入った「千代ちょこ」(写真、6枚入り、2808円)が購入できる。午前10時~午後8時。

(2018年4月17日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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