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アートリップ

Locus of Time 3 
田辺武作(山口県宇部市)

「時間」の流れを感じて

同じ題名の作品がいくつかあり、下関市立美術館の駐車場などにも置かれている=滝沢美穂子撮影
同じ題名の作品がいくつかあり、下関市立美術館の駐車場などにも置かれている=滝沢美穂子撮影
同じ題名の作品がいくつかあり、下関市立美術館の駐車場などにも置かれている=滝沢美穂子撮影 角度を変えて見ると違った表情に=滝沢美穂子撮影

 山口宇部空港に接し、青々とした芝生が広がるふれあい公園。子どもが走って行く先に、不思議な赤い彫刻があった。

 作品は長さ約12・5メートル、高さ約2・4メートル。一見、一つの細長い赤い物体をねじったよう。しかし近づいてみると、1メートル四方、厚さ15センチのステンレス製の直方体83個を、つなげて構成していることが分かる。それぞれを一定角度でずらしていくことで180度の回転が完成する。連続する個体の集合体なのだ。

 作者は同県出身の彫刻家、田辺武さん(72)。作品は2001年の現代日本彫刻展のために制作。03年に、巨大な作品を置くスペースがあるこの公園に設置された。タイトルは日本語訳で「時の軌跡」。

 人間はどこから来てどこへ行くのか。田辺さんは、人間が抱くシンプルな疑問を起点に、作品テーマを「時間と空間」に設定している。本作については、「時間は一方向にしか流れていかない。だけどそこには、朝昼晩や春夏秋冬など、円環する時間も存在する。そういった時間の概念を形にしました」と話す。作品の鮮やかな色は、山口の豊かな緑に合うようにという、日本画家の妻素子さんのアドバイスがあったという。

 吹き抜ける五月の風、散歩中の老夫婦、上空を飛ぶ飛行機。様々な時が流れる空間で、作品は美しい曲線を描きながら静かにたたずんでいた。

(町田あさ美)

 ふれあい公園

 2001年、山口宇部空港の滑走路延伸に伴い整備され、翌年4月に使用開始された公園。面積は約13万平方メートル。園内には芝生の広場や滑走路を模した長さ47メートルの「ミニ滑走路」、調整池や遊歩道などがあり、散歩やウォーキングなど地元の人の憩いの場として親しまれている。フェンス越しに滑走路を眺めることができるため、飛行機を間近に見たい子どもや写真撮影をする人にも人気のスポットだ。

 《アクセス》山口宇部空港直結。


ぶらり発見

生絹(すずし)豆子郎

 山口宇部空港内にある豆子郎(とうしろう)(TEL0836・35・0046)では、山口名物のういろうが購入できる。「生絹(すずし)豆子郎」(写真、10本入り、1400円)は、わらび粉を使ったなめらかな口溶けが特徴の人気商品。小豆と抹茶の風味が楽しめる。午前7時~午後8時。

 ふれあい公園から車で約50分、国の特別天然記念物の鍾乳洞、秋芳洞(あきよしどう)。全長約10キロの洞内のうち約1キロを歩いて観察できる。午前8時半~午後5時半(12~2月は4時半まで)。1200円。問い合わせは美祢市観光協会(0837・62・0115)。

(2018年5月22日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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