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アートリップ

森(しん)呼吸(家族) 
向井勝實(かつみ)作(青森市浅虫)

人間同様、朽ちていく

寝かせていない生木を使用。後で生じる割れやねじれも持ち味にしている=安達麻里子撮影
寝かせていない生木を使用。後で生じる割れやねじれも持ち味にしている=安達麻里子撮影
寝かせていない生木を使用。後で生じる割れやねじれも持ち味にしている=安達麻里子撮影 村上九十九(つくも)作「神々の椅子」。海沿いを走る国道4号の歩道上にあり、他に5作品も並ぶ=安達麻里子撮影

 浅虫温泉街からほど近い浅虫ダム。川音に混じる木々のざわめき、カエルの鳴き声が心地良い緑の中、駐車場横の小さな丘の上に、ノミ跡の残る最大高さ8メートルの木像が3体立つ。

 作者は青森県東北町出身の彫刻家、向井勝實さん(72)。樹齢約300年の青森ヒバを用い、父母子のイメージで家族の「におい」を形にしたという本作は、それぞれ見る角度で父にも母にも、子どものようにも見え、印象が様々に変わる。「曲がり木の面白さを生かし、未来への希望を込めた」と向井さん。経年変化で白色化した像には、キツツキがあけた穴も残る。「人間と同様、木も朽ちていく。それがいいんです」

 2000年に、浅虫温泉観光協会主催で開催された「彫刻シンポジウム」で制作された作品だ。県内外から集まった6人の彫刻家が1カ月間街に滞在して作品を制作し、本作を含む26点が街の各所に設置された。シンポジウムは数年続き、毎年ワークショップでノミを振るううちに彫刻にはまる住民も現れた。旅館辰巳館の女将(おかみ)・戸嶋マサさん(69)もその一人。自ら制作した大型作品が旅館内に並ぶ。「彫っている時は違う私になれた。出会いに感謝しています」

 彫刻が人をつなぎ、街を飾る。旅館の門前や海岸沿いの歩道、至る所に佇(たたず)む彫刻が、浅虫の風景に寄り添っていた。

(安達麻里子)

 浅虫温泉

 平安時代の僧、円仁や法然が発見したという伝説が残り、その地名は「麻蒸」が転じたものとされる。青森市生まれの版画家・棟方志功のゆかりの地で、同氏が残した「海も 山も 温泉も」の一文が街のキャッチコピー。温泉街を東西に流れる浅虫川の治水のため、2002年、街の上流500メートルの地点に浅虫ダムが完成。7月には、付近のほたる谷で3種のホタルが観賞でき、ホタル観賞会も開催される。

 《作品へのアクセス》浅虫温泉駅から徒歩30分ほど。


ぶらり発見

レッドマウンテン

 毎朝5時半から、地元住民と観光客が一緒に街を散策する早朝ウォークを開催中(所要時間約1時間、11~3月休み、雨天中止)。樹齢700年の赤松の巨木や、津軽八十八カ所霊場の一部を巡る四つのコースを日替わりで歩く。問い合わせは浅虫温泉観光協会(017・752・3250)。

 ラーメンや定食、海鮮丼など幅広いメニューを提供する鶴亀屋食堂(TEL752・3385)は浅虫温泉駅から徒歩5分。キハダマグロの刺し身を山のように積み上げた丼「レッドマウンテン」(写真は小2500円、ミニ2000円)が名物だ。

(2018年5月29日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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