五十三次 府中
日暮れて間もない時分、遊郭の入り口で、ちょうちんを持った女性と馬上の遊客が言葉をかわす。馬の尻にはひもでつるされた馬鈴。「りんりん」とリズム良く響かせながらやってきたのだろうか
陶芸だけでなく書画にも親しんだ半泥子(はんでいし)。本作はヒキガエルを描いた最晩年の作品で、自画像だという。
半泥子は30歳ごろから数回参禅し、のちに修行後の自分は楽観的になったと著書に書いている。ユニークな書画で禅の教えを説いた江戸時代の僧、仙厓(せんがい)の考え方にも共感していた。仙厓はうずくまるカエルを描き、そこに座禅をする人の姿を重ねた。形は似ているのにカエルに悟りが開けないのはなぜか、という問いかけを込めたとされる。
半泥子の絵には「まかり出(い)てたるハ千歳山のひきニて候(そうろう)」という言葉が。自邸で座禅をする自身をカエルに見立てたところにユーモアを感じる。「禅との出会いが、豪放磊落(ごうほうらいらく)な人格形成につながった」と主任学芸員の龍泉寺由佳さんは話す。