五十三次 府中
日暮れて間もない時分、遊郭の入り口で、ちょうちんを持った女性と馬上の遊客が言葉をかわす。馬の尻にはひもでつるされた馬鈴。「りんりん」とリズム良く響かせながらやってきたのだろうか
造形作家の岡﨑乾二郎さん(61)が案内するギャラリートーク。
岡﨑さんは、ある版画の前で立ち止まった。ゾフィー・トイベル=アルプ(1889~1943)の「段階的な配置」。彼女はスイスの芸術家でダンサーだ。「ダダイズムは女性アーティストが多いですが、ゾフィーは中心人物のひとりです」
この作品は、ある形の模様を間隔を置き、連続して描くことで、リズムを生み秩序を保っているという。ダンサーは、舞台で踊る自分の姿を見ることができない。しかし、身体は動きを把握し、多人数で踊っていても秩序が保たれる。「抽象は、視覚だけでなく身体で物の本質を理解すること。彼女がダンサーであることは重要だったんです」