五十三次 府中
日暮れて間もない時分、遊郭の入り口で、ちょうちんを持った女性と馬上の遊客が言葉をかわす。馬の尻にはひもでつるされた馬鈴。「りんりん」とリズム良く響かせながらやってきたのだろうか
卓越した技術と繊細な意匠で名をはせた京都の七宝家、並河靖之(1845~1927)。没後90年を記念し、初期から晩年までの作品が一堂に集う。
京都の武家に生まれ、10歳で養子に出されて後の久邇宮朝彦(くにのみやあさひこ)親王に仕えた。20代後半、副業として複数の事業に手を出すが、どれも失敗。たどりついたのが七宝製造だった。
本作は明治6(1873)年、28歳で手がけた初の作品。トルコブルーの背景地に、鳳凰が舞う。中国七宝を模した、濁った釉薬(ゆうやく)を使う技法は、「泥七宝」と呼ばれる。「モチーフにも中国の影響が見られますね」と学芸員の湯浅英雄さん。
完成後、久邇宮親王に献上するも、後に別の作品と交換してもらったという。記念すべき第一作目を、手元に置いておきたかったのだろう。