五十三次 府中
日暮れて間もない時分、遊郭の入り口で、ちょうちんを持った女性と馬上の遊客が言葉をかわす。馬の尻にはひもでつるされた馬鈴。「りんりん」とリズム良く響かせながらやってきたのだろうか
黒の背景地に咲き誇る黄色いヤマブキ。飛び交うスズメからは、さえずりが聞こえてきそうだ。頸部(けいぶ)の菊紋は、皇室関係からの注文品という証しだろう。
七宝制作は、ほぼ原寸大で描かれた下図を頼りに行われる。並河の工場には、工場長でもあった中原哲泉(てっせん)をはじめ、並河の構想を描き出す腕利きの画工がそろっていた。下図には時に、部位の色みについての細かい指示などが書き込まれた。
明治中期、並河のデザインは、古風な文様を装飾的にあしらった構図から、余白を生かした絵画的な構図に変化する。「文様から絵の域に」至ったと、国内外の博覧会で高い評価を受けた。「幼少期からの宮仕えで文化的教養を積み、美しいものを作る力が培われたのでは」と学芸員の湯浅英雄さん。