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私の描くグッとムービー

犬木加奈子さん(漫画家)
「妖婆(ようば) 死棺の呪(のろ)い」(1967年)

恐ろしくてファンタジック

 犬木加奈子さん(漫画家)「妖婆(ようば) 死棺の呪(のろ)い」(1967年)

 

 ホラーって、究極のファンタジーだと思うんです。この映画もすごくファンタジック。棺おけがビュンビュン空を飛んだり、死人が生き返ったり。恐ろしい中にも童話のような世界が広がっている。ホラーとファンタジー、笑いと恐怖って表裏一体で、どちらも人の心を引きつけるお話づくりの原点なのだと思います。

 舞台は中世のウクライナ。頼りない神学生ホマーがある村に呼ばれ、若くして死んだ娘の遺体の前で3晩続けて祈るように命じられる。古い教会に閉じ込められ外から施錠されると、死んだはずの娘が突然起き上がり、魔物とともにホマーに襲いかかります。

 不思議な映画ですよね。ミュージカルのように突然歌い出してしまったり、お酒を飲んではひたすら騒いだり。一見ムダでは、と思えるようなシーンが延々と続いて、怖がらせる気があるんだかないんだかよく分からない。奇妙なアンバランスさが魅力です。

 初めて見たのは中学生の頃。人一倍怖がりなんだけれど、好奇心には勝てなくて。可愛いものと同時に怖いものにも心引かれる子どもでしたね。これは今の作品づくりにもつながっています。

 作り込まれて隙のないハリウッド映画とは違い、ゆるゆるの構成が見る側の空想を逆に刺激する。この映画に影響を受けたのだろうな、という漫画や映画も多い。ものを作る仕事をしている人には、ぜひ見て欲しい一本ですね。

聞き手・中村茉莉花

 

  共同監督=アレクサンドル・プトゥシコ
   製作=ソ連
   出演=レオニード・クラヴレフ、ナターリヤ・ヴァルレイほか
いぬき・かなこ
 北海道出身。「ホラーの女王」の異名を持つ。代表作に「不思議のたたりちゃん」「不気田くん」など。
(2015年3月6日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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