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私の描くグッとムービー

魔夜峰央さん(漫画家)
「太陽がいっぱい」(1960年)

甘く危険な美青年との出会い

魔夜峰央さん(漫画家) 「太陽がいっぱい」(1960年)

 主人公のトムは、現代のイケメンとは比べものにならない美しさと、ガラスのような危うさを持つ青年。名優アラン・ドロンの魅力そのものでした。

 映画を見たのは、高校生の頃です。当時から美青年好きだったのでしょうね(笑い)。ちょうど「漫画家になろう」と決意した時期でもあり「甘くて危険な美青年を描く」というテーマを与えられたように思います。

 トムは野心家で、イタリアで遊び暮らす裕福なフィリップの走り使いをしながら、次第に彼の信頼を得、最後には殺してフィリップに成り代わってやろうと算段します。2人とも互いにサディストなのですが、トムの方がより悪魔的。甘えながら相手に心を許させる、ネコ科動物のようなね。トムがフィリップのサインを壁に投影して、偽のサインの練習をするシーンにはハラハラさせられました。

 遊んで暮らしているお金持ちって日本ではあまり受け入れられないでしょう。しかし映画ではフィリップの暮らしぶりがとてもおしゃれに描かれています。私は新潟の実家にいたものだから、余計にギャップを感じ、あこがれたんですね。

 海に出たヨットの上でフィリップを殺したトムは、彼の財産、そして恋人までも自分のものにして一足飛びに金持ちに――、というところでラストへ。数ある映画の中でも特に秀逸な「どんでん返し」です。ニーノ・ロータの甘くて悲しげな音楽が、作品をより強く印象づけています。

聞き手・渡辺鮎美

 

  監督=ルネ・クレマン
  製作=仏・伊
  出演=アラン・ドロン、マリー・ラフォレ、モーリス・ロネほか
まや・みねお
 1953年生まれ。78年から続く代表作のギャグ漫画「パタリロ!」は、現在ウェブで掲載中。単行本は97巻まで発行。
(2017年6月9日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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