11歳の少年ダニエルと少女メロディの初恋の物語です。2人の情熱が友達や大人を巻き込んで大騒動になります。
この映画の魅力は、全編を通して子どもたちがとても生き生きとしているところです。森の中の墓園を走って登校したり、女の子たちがこっそりロックスターのポスターにキスしたり。学校でおしゃべりする何げないシーンでさえ、表情が自然でみずみずしい。まるでドキュメンタリー映画のようなんです。
中学の時、男友達と見たんですが、2日後に1人で映画館に行きました。あの透明感あふれる映像をずっと見ていたかったんです。ビンに入れた赤い金魚を眺めながら町を歩くメロディの可愛らしさに、完全に心をつかまれました。バレエを踊るメロディにダニエルが目を奪われるシーンも印象的ですよね。
一方で、2人の恋を心配してやきもきする親や教師の描き方は短絡的で、悪者扱い。これは、大人の事情が見えていない、その年頃の目線を貫いているからでしょうね。世の中の複雑さが見えない分、彼らの中では世界がくっきり見えているから、「悪いものは悪い」「一緒にいたい。だから結婚する」って、思いと行動が一直線なんです。
僕はほぼ同年齢だったけど、好きな女の子に話しかけるなんてできなかった。だから、不器用でも真っすぐメロディに向かっていくダニエルに憧れて、応援したくなった。今もすごくいとおしい「僕の物語」です。
聞き手・井上優子
監督=ワリス・フセイン
製作=英 出演=マーク・レスター、トレイシー・ハイド、ジャック・ワイルドほか
代表作に絵本「なつのいちにち」。少年と少女の手紙のやりとりを描いた絵本「サウスポー」(金原瑞人翻訳)のイラストも手がける。
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(2017年7月7日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)