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目利きのイチオシコレクション

近代西洋ガラス工芸【上】 北澤美術館

ガレの初期~晩年を網羅

エミール・ガレ「鯉文双魚形花瓶」(1879~89年)
エミール・ガレ「鯉文双魚形花瓶」(1879~89年)
エミール・ガレ「鯉文双魚形花瓶」(1879~89年) エミール・ガレ「日本の怪獣の頭」(1876年の意匠)

 曲線美を追究したアールヌーボー様式。19世紀末~20世紀初頭の欧州で流行し、ガラス工芸にもその旋風は吹きました。先駆けは仏のエミール・ガレ(1846~1904)。彼の作品を所蔵する美術館などは日本に約20館ありますが、初期~晩年の代表作を網羅的に見られるのが北澤美術館です。

 ガレは日本美術の影響を受け、昆虫や花などをモチーフにした作品を多く手がけました。「鯉文双魚形(こいもんそうぎょがた)花瓶」もその一つ。二匹の鯉を腹で合わせた器の形は中国や日本の瓶を模したもの。中心に葛飾北斎の「北斎漫画 十三編」から抜粋した鯉の絵をあしらっています。水面や鯉の目、鱗(うろこ)などに手彫りで凹凸を施し、エナメルで絵付けした仕上がりは、飛び出して来そうな迫力があります。様々な構図や形をコラージュすることで、独自の奇々怪々な表現に至ったのでしょう。

 日本の備前焼の獅子頭を元にしたのが「日本の怪獣の頭」。獅子のたてがみや、表情をガラスで再現したつぼです。脇に描かれた一匹の虹色のバッタは、ガレが思う日本のイメージかもしれません。

 ガレの肩書は工場経営者兼、デザイナー。実際の作品は工房の職人たちが制作していましたが、職人に渡す素描には細かい注文が書かれています。ガラス工芸を純粋芸術に近づけた、彼の想念が伝わってきますね。

(聞き手・吉田愛)


 どんなコレクション?

 アールヌーボーやアールデコなどのガラス工芸品約1千点のほか、東山魁夷、山口華楊(かよう)らの日本画も収蔵。常設にはエミール・ガレの代表作「ひとよ茸(だけ)ランプ」の展示室もある。美術館はバルブメーカー「キッツ」の創業者・北澤利男(1917~97)が設立。北澤の故郷、長野県諏訪湖のほとりに地域の文化発展を目的として1983年に開館した。

 2018年3月31日までの「ガレのジャポニスム展」で「鯉文双魚形花瓶」と「日本の怪獣の頭」が公開中。

《北澤美術館》 長野県諏訪市湖岸通り1の13の28(TEL0266・58・6000)。午前9時~午後6時(10月~3月は5時まで。入館は30分前まで)。1000円。10月31日休み。

山根郁信さん

美術商 山根郁信

やまね・いくのぶ 兵庫・神戸のアンティーク専門店「アンティック・エルテ 1920」の代表。アールヌーボー期の美術品に精通し、展覧会図録にも多数執筆する。編著に「別冊太陽 ガレとラリックのジャポニスム」など。

(2017年7月18日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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