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目利きのイチオシコレクション

茶道具【上】 MOA美術館

日本の茶の湯 変遷たどる

野々村仁清 国宝「色絵藤花文茶壺」 江戸時代(17世紀)
野々村仁清 国宝「色絵藤花文茶壺」 江戸時代(17世紀)
野々村仁清 国宝「色絵藤花文茶壺」 江戸時代(17世紀) 長次郎「黒楽茶碗 銘 あやめ」 桃山時代(16世紀)

 一服の茶を通じて、人の心と心を通わす茶の湯。亭主は掛け物や花など折々の趣向を凝らして茶室を設(しつら)え、茶碗(ちゃわん)から茶杓(ちゃしゃく)まで道具を組み、客をもてなします。MOA美術館の創設者・岡田茂吉氏も茶を嗜(たしな)みました。私の曽祖父の武者小路千家12代家元は、岡田氏の茶道具収集の美術顧問的な役割も担った。そんなご縁もあり、開催中の「茶の湯の美」展のキュレーターを私が務めました。

 「色絵藤花文茶壺(ちゃつぼ)」は同館が持つ国宝。作者は江戸初期に色絵の焼き物を大成させた野々村仁清(にんせい)です。「茶壺」は、新茶を詰めて熟成させ、11月にその年の初物を祝う「口切(くちきり)の茶事」で使われます。今展に合わせ、この茶壺の複製品を使って茶事の再現を試みました。ただ、口が狭いので茶葉が取り出しにくいし、見た目も美しすぎる。この壺はあくまで調度品としての飾り壺だったのでしょう。

 茶碗は、唐物、高麗、和物の3種類に大別できます。和物の象徴といえるのが「黒楽茶碗 あやめ」。楽家の初代長次郎が千利休の創意を込めて作り、1587(天正15)年に利休が茶会で用いたといわれます。飾り気の無い黒一色で、薄暗い茶室では空間へ溶け込む。厚みのある半筒形は、手にフィットしてじんわりと熱を伝え、身体と同化する。見る以上に使われるための茶碗です。私があやめでお茶を頂いた時、飲んだ瞬間に手の中で器の存在が消えた気がしました。

(聞き手・笹木菜々子)


 どんなコレクション?

 国宝「色絵藤花文茶壺」を含む、茶道具の名品を所蔵する。唐物愛好によって書院の茶礼が生まれた室町時代から、千利休を経て、多様化した江戸時代まで、日本の茶の湯の歴史を俯瞰(ふかん)できる充実した内容だ。創設者の岡田茂吉(1882~1955)が、第2次大戦後に収集した。豊臣秀吉が創案した「黄金の茶室」の復元も常時公開。今回紹介した2作が見られる「千宗屋キュレーション 茶の湯の美 コレクション選」は12月10日まで(「茶壺」は常設展示)。

《MOA美術館》 静岡県熱海市桃山町26の2(TEL0577・84・2511)。午前9時半~午後4時半(入館は30分前まで)。1600円、高・大学生1000円。11月23日を除く(木)休み。

千宗屋さん

武者小路千家15代家元後嗣(こうし) 千宗屋

 せん・そうおく 1975年生まれ。武者小路千家は、茶道三千家の一つ。慶応義塾大大学院修士課程修了。茶道具だけでなく古美術や現代アートにも造詣(ぞうけい)が深い。著書に「茶 利休と今をつなぐ」など。

(2017年11月21日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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