目利きのイチオシコレクション

エコール・ド・パリ【上】 東京富士美術館

哀感漂う 独自の画風

モーリス・ユトリロ「モンマルトル、ノルヴァン通り」(油彩・キャンバス、1916年ごろ)

モーリス・ユトリロ「モンマルトル、ノルヴァン通り」(油彩・キャンバス、1916年ごろ)

  • モーリス・ユトリロ「モンマルトル、ノルヴァン通り」(油彩・キャンバス、1916年ごろ)
  • アメデオ・モディリアーニ「ポール・アレクサンドル博士」(油彩・キャンバス、1909年)

 20世紀初頭、芸術の都パリには各国の芸術家が集まりました。中でも、セーヌ川左岸のモンパルナスを根城に、特定の流派に属さず活動した画家たちを総称して「エコール・ド・パリ」と呼びます。孤独や貧困に苦しみながらも追究した彼ら独自の画風は、哀感を漂わせ、人々の心をとらえました。代表的な作家の作品を多く持つ東京富士美術館所蔵品の中から、2作家の作品を見てみましょう。

 エコール・ド・パリでは例外的に、生粋のパリジャンであるユトリロ(1883~1955)は、描く対象もほとんどがパリの風景でした。母から愛情を受けずに育ち、10代から酒におぼれる日々。華やかな表通りよりもうらぶれた路地を好み、初期の作品には人を描くことも嫌いました。

 本作は、道の先にあるサクレ・クール寺院を神聖で汚れのない白で描き、手前にある建物の外壁は風雨にさらされ、ややくすんだ白で対比させています。窓は閉まり、どこか感傷的でユトリロ自身の哀愁が感じられます。

 一方、36年の短い生涯だったユダヤ系イタリア人のモディリアーニ(1884~1920)が描いたのは、ほぼ人物でした。瞳を描かず、憂いを帯びた表情が特徴ですが、パトロンがモデルの「ポール・アレクサンドル博士」は、注文に応えようと瞳を描いた貴重な一枚です。

(聞き手・根津香菜子)


 どんなコレクション?

 1983年開館。エコール・ド・パリは、ユトリロ3点、モディリアーニ2点を含む計166点。全体のコレクションは、絵画や彫刻、陶磁、刀剣など様々な時代、ジャンルの作品約3万点。中でも西洋絵画はルネサンス期から現代までの作品を所蔵し、変遷をたどることができる。「モンマルトル、ノルヴァン通り」と「ポール・アレクサンドル博士」は、3月25日まで開催の常設展示「西洋絵画 ルネサンスから20世紀まで」で。

《東京富士美術館》 東京都八王子市谷野町492の1(TEL042・691・4511)。午前10時~午後5時(入館は30分前まで)。1300円、高・大学生800円、小中学生400円。(月)((祝)の場合は翌日)休み。

成城大名誉教授 千足伸行

千足さん

 せんぞく・のぶゆき 広島県立美術館館長。東京大・美術史学科卒業後、西ドイツ(当時)政府給費留学生としてミュンヘンに留学。帰国後、国立西洋美術館主任研究官などを歴任。専門は近代フランス絵画。著書に「西洋名画ズバリ101!」ほか。

(2018年1月9日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

広告
「目利きのイチオシコレクション」の新着記事 一覧を見る
漆芸【下】 東京国立近代美術館工芸館

漆芸【下】 東京国立近代美術館工芸館

江戸時代まで漆芸は、寺院や大名の注文を受け、職人が分業で制作していましたが、明治になると、作り手が自ら発想し、全工程を手がける作家活動が盛んになります。

漆芸【上】 首里城公園

漆芸【上】 首里城公園

漆芸は、漆の樹液を塗料として用い、金や貝で装飾を施す美術工芸品です。漆の木は、日本から東南アジアまでのモンスーン地帯にのみ生育します。

色絵【下】 石川県九谷焼美術館

色絵【下】 石川県九谷焼美術館

今回は、色絵の中でも「再興九谷」に焦点を当てて紹介します。

色絵【上】 戸栗美術館

色絵【上】 戸栗美術館

色絵は陶磁器に赤や緑、黄などで上絵付けし、低温で焼成した焼き物の総称です。中国様式を踏襲し、日本では1640年代以降、有田の伊万里焼や、京都の京焼など各地で盛んに作られました。

新着コラム 一覧を見る
「神農の虎」

美博ノート

「神農の虎」

ユニークな表情をした動物の張り子や愛らしい土人形、色鮮やかな凧(たこ)など、日本各地に伝わる郷土玩具。本展では、戦後に作られた所蔵品から約550点が府県別に並ぶ。

中近東文化センター附属博物館

気になる一品

中近東文化センター附属博物館

エジプトやメソポタミア文明を紹介する中近東文化センター附属博物館。約4千年前にナイル川周辺で作られたガラス質のカバ像が「ルリカ」の愛称で人気だ。

一石を投じる 島袋(しまぶく)道浩作(札幌市中央区)

アートリップ

一石を投じる 
島袋(しまぶく)道浩作(札幌市中央区)

新緑の大通公園を通り抜けた先、札幌市資料館前にそびえる巨石が現れた。高さ約2・5メートル。自然石だが、れっきとしたアート作品だ。かつては北海道庁の前に置かれ、様々な意見が飛び交うなど、「波紋」を呼んだ。

陶片 出光美術館

私のイチオシコレクション

陶片 出光美術館

一見すると、いびつな陶磁器のかけら。でもこの小さな陶片には、歴史や文化をひもとく情報が詰まっています。

☆新コラム☆

マイページへ 新規会員登録

プレゼント応募時に1度会員登録をされると、以後はパスワードなどの入力だけでご応募いただけます。