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街の十八番

田中帽子店@埼玉・春日部

自社ブランドで生き残り

オリジナルの帽子をかぶった田中行雄さん(右)と優さん。後ろの棚には帽子の木型がずらり
オリジナルの帽子をかぶった田中行雄さん(右)と優さん。後ろの棚には帽子の木型がずらり
オリジナルの帽子をかぶった田中行雄さん(右)と優さん。後ろの棚には帽子の木型がずらり 「渦」と呼ばれる頭頂部を浮かないように縫うのがポイント

 ミシンの音を響かせ、田中行雄さん(82)が麦のひもを円を描くように縫い合わせていく。埼玉県春日部市にある「田中帽子店」の工房。4代目の行雄さんの指導のもと、20~70代の縫製職人4人が市の特産品、麦わら帽子を作り続ける。孫で6代目の優(ゆう)さん(27)は、昨夏から加わった。

 同市はかつて麦の栽培が盛んだった。農家は農閑期の副業として、麦の茎7本を交互に編んだひも「麦稈真田(ばっかんさなだ)」を輸出。その傍ら、農作業用の帽子を手縫いで作り、関東一円に販売していた。田中帽子店は、1880(明治13)年に創業。十数年後にはドイツからミシンを入手し、生産量を増やした。だが、農家用は需要が減り、幼稚園の制帽やレジャー用が主力に。戦後、麦は中国産に変わった。

 現在は大手セレクトショップなどへのOEM(相手先ブランドでの生産)が中心だが、5年前から自社ブランドの製品も手がけ、活路を模索する。量産が可能な天然素材の帽子メーカーは国内でも少なくなった。「将来は春日部に店舗を持ちたい」。優さんの夢だ。

(文・写真 牧野祥)


 ◆埼玉県春日部市赤沼1347(TEL048・797・8391)。購入は、インターネットや東急ハンズ(一部店舗)などで。5400円から。

(2017年7月21日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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