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街の十八番

若林鋳造所@栃木県佐野市

道具と共に「東の天明」脈々

大正まで使用した溶解炉「大ごしき」の前で。秀真さん(左)といとこの洋一さん
大正まで使用した溶解炉「大ごしき」の前で。秀真さん(左)といとこの洋一さん
大正まで使用した溶解炉「大ごしき」の前で。秀真さん(左)といとこの洋一さん 左から秀真さん作「天命責紐(せめひも)釜」「天命繰口肩衝(くりくちかたつき)釜」。1点約50万円

 佐野天明(てんみょう)鋳物の歴史は、平将門の乱鎮圧に尽力した藤原秀郷(ひでさと)が、939年にこの地で鋳物師(いもじ)に武具を作らせたのが始まりとされている。室町時代には茶の湯の世界で「天明(命)釜」が珍重され、福岡県芦屋町の芦屋釜と並んで「西の芦屋、東の天明」と称された。

 1846年創業の若林鋳造所5代目・若林秀真(ほつま)さん(64)は、18歳で父・彦一郎さんに弟子入りした。しかし修業半ばの28歳の時、父が他界。秀真さんは、家に代々伝わる鋳型や道具、文書など約1万点の資料から技術を学び続けた。「思い悩む時も、先祖が残した道具類が導いてくれた」

 天明釜は砂と粘土で作った鋳型に、1400度以上の鉄を流し込んで作り上げる。力強い造形と荒々しい肌合い。見つめていると、吸い込まれそうな感覚を覚える。

 10年前、秀真さんはいとこの洋一さん(86)と「天命鋳物伝承保存会」を設立した。現在、鋳造所の道具類1453点が県指定有形民俗文化財になっている。「自分には、伝統技術を一滴残さず伝える責任がある」と秀真さん。

(文・写真 渡辺香)


 ◆栃木県佐野市大祝町2398(TEL0283・22・0454)。午前9時~午後6時。不定休。東武佐野線佐野市駅。

(2017年12月1日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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