読んでたのしい、当たってうれしい。

ひとえきがたり

間藤(まとう)駅(栃木県、わたらせ渓谷鉄道)

終着駅は新たな旅の始発駅

閑散期の冬、暗闇に浮かび上がる幻想的なイルミネーションを目当てに間藤駅まで来る人も=栃木県日光市足尾町
閑散期の冬、暗闇に浮かび上がる幻想的なイルミネーションを目当てに間藤駅まで来る人も=栃木県日光市足尾町
閑散期の冬、暗闇に浮かび上がる幻想的なイルミネーションを目当てに間藤駅まで来る人も=栃木県日光市足尾町 地図

 足尾銅山で栄えた渡良瀬川の上流、標高661メートルに位置する駅のホームに降り立つ人はまばらだった。

 間藤駅はかつて国鉄足尾線の客車の終着駅だった。銅を運ぶため1914年に開通したが、73年の閉山後、乗降客が激減、89年に第三セクターに移管された。

 一方、間藤駅はもうひとつの「終着駅」として知られている。紀行作家の故宮脇俊三さんが、77年に国鉄全線を完全乗車した際の最後の駅。鉄道ファンには聖地として有名だ。

 駅舎には、その著書「時刻表2万キロ」を記念するコーナーがある。宮脇さんが亡くなった2003年、わたらせ渓谷鉄道職員の遠坂(えんざか)拓さん(43)が追悼列車を企画し、あわせて展示したのがきっかけだ。自身も宮脇さんのファン。高校時代にJRを「完乗」し、縁あって就職した。

 地域の過疎化が進むなか、同鉄道は観光に力を入れる。現在、夜間に「各駅イルミネーション」を開催。間藤駅は「カモシカの見られる駅」として紹介され、貨物の廃線跡を歩くツアーも人気だ。だが意外にも、「2万キロ」のイベントは行っていない。「宮脇さんのように一人でふらっと来てもらえたら」と遠坂さん。

 この日、駅舎を訪れた愛知県刈谷市の河村忠一さん(57)も「完乗」者。「達成まで景色を見る余裕もなかった。いまは観光も楽しみ」。旅の終わりは新たな旅を誘う。列車はまもなく、始発駅となった間藤駅を出発した。

文 石井久美子撮影 横関一浩 

 沿線ぶらり  

 わたらせ渓谷鉄道は、桐生駅(群馬県桐生市)と間藤駅(栃木県日光市)を結ぶ44.1キロ。冬季の(日)(祝)は、1日1往復で「トロッコわっしー号」が走る。

 貨物の終着駅だった足尾本山駅(本山製錬所跡内、内部非公開)まで間藤駅から徒歩約40分。近くに国の重要文化財の古河橋(立ち入り禁止)がある。

 足尾銅山観光(日光市、TEL0288・93・3240)は、二つ隣の通洞駅から徒歩5分。廃坑の一部を利用して1980年にオープンした。当時の鉱石採掘現場を再現するなど、足尾銅山の歴史や役割を学ぶことができる。

 

興味津々
宮脇俊三さんの自筆原稿のコピー

 「時刻表2万キロ」コーナーは、駅舎の待合室にある。宮脇俊三さんの自筆原稿のコピー=写真=や著作を展示している。2003年から置かれている記帳ノートには、宮脇さんのファンや訪れた人が思い思いの感想を記している。

(2016年2月2日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

今、あなたにオススメ

ひとえきがたりの新着記事

新着コラム