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ひとえきがたり

洗馬橋(せんばばし)電停(熊本県、熊本市電)

電停前にはタヌキがおってさ

停留場に鎮座するタヌキの親子。頭は「学運」、おなかなら「福運」と、なでる場所ごとに違う御利益があるとか
停留場に鎮座するタヌキの親子。頭は「学運」、おなかなら「福運」と、なでる場所ごとに違う御利益があるとか
停留場に鎮座するタヌキの親子。頭は「学運」、おなかなら「福運」と、なでる場所ごとに違う御利益があるとか 洗馬橋(せんばばし)電停

 路面電車を待つ人の横で、親子のタヌキが手をつないで空を見上げる。電車の接近を知らせる「あんたがたどこさ」のメロディーがのんびり響き始めた。

 手まり唄に登場する「せんば山」の地。タヌキ親子の像は商店主らによる「肥後てまり唄顕彰会」が1992年に建てた。なでれば御利益があるそうだ。

 周辺には、ほかにもタヌキが5匹。中でもひときわ目立つのが電停の目と鼻の先、熊本中央郵便局前のポストの上に立つ「せんば郵太」だ。夏に合わせて前脚に浮輪を掲げ水泳帽やタオルをまとった姿に飾り付けたのは、局員の板床美和子さん(39)。5年前、落とし物の手袋がはめられていたのを見て、ボランティアで着付け係を買って出た。「我が子じゃないけど、郵太くんが一番可愛い」

 せんば山は郵便局の裏手、県立第一高校の敷地にある小高い丘がそれだとか。「去年の夏、正門付近の茂みで昔話に出てくるような丸々としたタヌキを見ました」と土井裕三子先生(47)。かつて生物の教諭が調べたところ、何組かの家族がこの丘を中心に暮らしていたという。

 顕彰会の事務局を務める丸山歳之さん(73)は出身地を尋ねられると「あんたがたどこさ」を歌ってきた。「唄が俺の生まれ育った住所」。しかし歌詞の語尾につく「さ」は熊本弁にはなく、関東で生まれた唄ではないかと想像している。「いろんな説があっていい。人を化かすタヌキのことだけん」

文 中村さやか撮影 上田頴人 

沿線ぶらり

 熊本市電は上熊本駅前電停、田崎橋電停と健軍町電停を結ぶ総延長12.1キロ。

 水道町電停すぐのくまモンスクエア(TEL096・327・9066)内には人気キャラ、くまモンの「営業部長室」がある。ホームページで公開している在室予定に合わせて行くと、目の前でくまモン体操などが見られる。

 味噌(みそ)天神前電停すぐの味噌天神(本村神社)は奈良時代の713年創建。多量の味噌が腐ったときに、この神のお告げで境内のササの葉を味噌桶(おけ)に立てたところ、おいしく変わったと伝えられる。

 

 興味津々
 
 

 電停の東側、坪井川に架かる船場橋周辺はかつて船着き場として栄えた。川沿いに立つ肥後 福のや(TEL096・323・1552)は築130年以上。川からの荷揚げのために造られた地階で、地元の食材を使った料理が味わえる。熊本市中央区中唐人町15。

(2014年7月29日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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