■夫婦の離婚、子育て…… 現代的テーマの先駆け
Merry X’mas! 今年はどんな一年だったでしょうか? さて、ベストカップルと呼ぶにはかなり皮肉な作品を選んでしまいましたが、これは夫婦・男と女のある真実を見事に描いていて、逆の意味でベストなんです!? 劇中の2人は、言わばかつてのカップル。冒頭、仕事一本槍だった夫・ダスティン・ホフマン扮するテッド・クレイマーの元を、7歳の幼い息子ビリーを置いて、メリル・ストリープ扮する妻ジョアンナ・クレイマーが、ある日突然別れを告げて去ってしまう。ここから、お話は始ります。テッドは昇進が決まり、益々忙しくなろうという矢先に、青天のヘキレキ。ただの主婦でなく、母でなく、今までの人生から自由に解放され、自己実現したい、という衝動に従ったジョアンナ。残されたテッドは働きながら、ぎこちなく慣れない子供の面倒を見るハメに・・・。
離婚と女性の自立と子供の養育権、現代には多くのケースがある社会問題をテーマにした映画の、これは先駆けだったように思います。30年も前だけど、今でも古さを感じません。その後のそういったテーマの作品は、全てが少なからず影響されていると言っても過言ではないでしょう。当時はなかなかショッキングだったのです。人間誰しも家族とのすれ違いは、とっても悲しいもの。子供が犠牲になるのは、辛い。無垢でやんちゃなビリーがむっちゃ可愛いかっただけに、切ない、胸が痛い!!
主演の2人は、ハリウッドの超大物なので(特にメリルは、この後大スターに)キラ星のごとく沢山の名作に出演していますが、共演作品はこれだけ。しかし、燦然と輝き続ける傑作だから、2人の印象は不滅です。原題は「Kramer VS. Kramer」、そう、元夫婦は子供を巡って法廷で戦っちゃう、それがクライマックスになっています。まさにこれが血みどろの戦いで・・・観ていてかなりイタイんです。
僕が初めて観たのは中学生のとき、話題になってて近所の映画館で見ましたが、まあ全部は理解できるはずもなく・・・ 多くの観客が思ったうように、メリルの妻ジョアンナが、なんと勝手で冷たいんだろう、くらいの印象しか残りませんでした。しかし、成人してから見直したら、去った妻のことも何となく理解ができました。忙しくていつも寝グセがある、シングルパパの奮闘記は、失敗だらけで、けなげで面白くて、応援したくなるのですが、こんな結果を招いてしまったのは彼自身の、かつてのワーカホリック、亭主関白のせいだったんだろうなあ、ということも想像できて・・・。いまや僕も結婚し、年令と共にいろんな機微がわかるようになりました。子供を持つこと、そして離婚はまだ経験していませんが(できれば経験したくないですが・笑)・・・身近になってきているのは間違いありません。
■撮影中、離婚調停中だったホフマン
大好きな作品ですが、僕がこの映画について書く日が来るとは思わなんだ。DVDならぬLDを持っていますし、TVで日本語吹き替え版も何度も観ています。吹き替え版のテッドもビリーの演技もなかなか良かったんですよね。舞台はNYで、四季の風景がとっても美しい。1980年の第52回アカデミー賞、作品、監督、主演男優、助演女優、主要4部門を受賞。この頃のアカデミー受賞作品って、翌年が「普通の人々」だったりして、大作でなく小規模な家族のドラマが続きましたが、世相だったんでしょうか。テーマ曲として使われたビバルディの「マンドリン協奏曲」が印象的です。この曲、フランソワ・トリュフォー監督の「野生の少年」(1969)のテーマ曲でもありましたが、これは監督ロバート・ベントンの、名匠トリュフォーへのオマージュだったんです。
ダスティン・ホフマンは1937年生まれだから、もう70才かあ。あの「卒業」(1967)の主役で一躍有名になり、アカデミー賞にもノミネートされ、以後は滅多に外さない傑作への出演を連打。作品賞に輝く「真夜中のカーボーイ」(1969)でもまた同賞にノミネート、「レニー・ブルース」(1974)でも、そして4度目の正直で「クレイマー〜」で。かつてアカデミー賞について批判的発言をしてい彼も、これはさすがに受け入れた。さらに「トッツィー」(1982)で再びノミネート、「レインマン」(1988)で再び主演男優賞受賞。2度の受賞は、ほんの数人かいない偉業であります。本当に様々な役を巧みに演じてきていますが、彼がハマるのはやっぱり、地に近い直情型の平凡な庶民を演じるときだと思います。ウディ・アレンやスピルバーグらと同じく、彼もユダヤ系。映画界にたくさんいますね。
この作品の撮影中、本当に前妻と離婚調停中だったというから、面白がっちゃいけないけど、その巡り合わせが何とも皮肉で面白い。最初にこの役をオファーされたとき「冗談じゃねえ!シャレになるか!」とキレたらしい(笑)。でも演技のリアリティにはずいぶんプラスになったんでしょうね。子供は、前妻との間に1児がいたけど、再婚相手と4人の子供を作る。
■ストリープは一気に大スターに
ニューシネマ全盛の’70〜80年代、ダスティンと、アル・パシーノとの熾烈なライバル競争があったように思います。同じように背が小さくてアンチ・ヒーローを演じてスターになった。アルが「狼たちの午後」(1975)の銀行強盗役で成功すると、ダスティンも負けじと「ストレート・タイム」(1978)で銀行強盗役に(こちらはあまり評価されなかったようですが)。逆にダスティンが「クレイマー〜」で成功を収めると、アルが「喝采の影で」(1982)で沢山の子供を持つパパ役に挑戦(こちらもあまり評価されず)。実はアルは「クレイマー〜」の主演のオファーを断っていたのでした。彼が演じていたらどうなっていたんでしょうかね?
メリル・ストリープは、1949年生まれ。「ディア・ハンター」(1978)で注目される。ウディ・アレンの「マンハッタン」(1979)でも、離婚した冷たい感じの妻役だったっけ(レズだったから、という設定でした)。「クレイマー〜」でアカデミー助演女優賞を受賞、以降、大女優の道をまっしぐら。「ソフィーの選択」(1982)で主演女優賞を獲得。ノミネートされることなんと14回!「ゴッドファーザー」「ディア・ハンター」「狼たちの午後」に出ていた演技派ジョン・カザールと婚約していたが、1978年に彼が死亡(劇中そのままの非運な人です)。のち現在の夫と結婚し、4人の子供をもうけた。ハリウッドスターは子沢山。細かった彼女も、今は貫禄十分過ぎるほど、58才でも現役でバリバリ。
他にメリル・ストリープで印象深い作品は、ロバート・デ・ニ−ロと、妻帯者同士の不倫を描いた「恋におちて」(1984)ですな。偶然の出合いから相思相愛になり、大人同士がずっとずっと相手を求めているのに、肉体関係にまでは至らない。その2人の真面目さと不器用さがなんとも切なく、少年少女の恋愛のようで良かったなあ。これもココで取り上げたかったんですけど(X’masがキーワードだしね)。ではまた次回!!良いお年を!