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2008.3.18(火)更新  ラジカル鈴木のこの2人が最高!!
ラジカル鈴木のこの2人が最高!!
第10回 「アウェイ・フロム・ハー 君を想う」
ジュリー・クリスティ&ゴードン・ピンセント
アウェイ・フロム・ハー 君を想う
■理想の熟年カップルに訪れる危機

 今回は今までの中でも最も高齢、とは言ってもまだ60代ですが。酸いも甘いも知り尽くした熟年カップル。二人は結婚して半世紀近い44年目。出合いは、夫グラントが元大学教授、妻フィオーナはその教え子だった。彼女がまだ18才のときであり、夫に全てを捧げてきた一生だと言っても過言ではないでしょう。夫も同様でしょうか? リタイアした二人は、閑静なオンタリオ湖畔の落ち着いた家で悠々自適の生活おくっていた。いまだに仲睦まじく、長きにわたって深く愛し合っていた、まさにパーフェクトな夫婦にしか見えません。が、しかし。人生の終章に思いもよらぬ危機がやってきて、封印していた過去の記憶が蘇えり・・・

 誰もがいつかは直面する老い。今後、高齢化社会化は間違いなく進んでいくようですが、それを見据てか老人が主人公の映画も多く作られるようになった昨今。本作品は自分の趣味で選んだわけではないのですが、しかし、大いに有意義で、心を揺さぶられ、色々と考えさせられました。まだ若い僕や貴方も、こういった作品を見て考察し、来たるべき未来を研究しておくのは有益なことかもしれません。いや、まだ辛うじて元気ですが、親のことを考えると、ひと事ではありません。ボケの問題、介護の問題。

 妻のフィオーナが、物忘れがひどくなり、道に迷ったり、奇行が目立つようになってきます。本人も自覚し、とうとうに自ら施設に入ることを選択します。しかし、1日たりとも妻と離れて過ごしたことがなかった夫には、別々に暮らすことなど考えることができません! 寂しくて耐えられないのです。さあ、困った。

 アルツハイマー病は、未だ原因がよく解明されていないけれど、いわゆる認知症の半分以上をしめ、発症例は年々増えているそうです。愛しい伴りょが、自分のことを誰だか解らなくなる。遠のいてゆく素晴らしかった思い出。いや〜〜切ない。鑑賞中、やりきれない気持ちに何度もなって「あなたを心底愛している彼がまた来ているんだから、どうか思い出してあげてよ!」と心の中で叫んぢゃいました。「アイリス」(2001)、「きみに読む物語」(2004)、「私の頭の中の消しゴム」(2004)も近いテーマだったように思いますが、これは夫の側から妻を見守りながら展開していいきます。

■難役を名演しゴールデン・グローブ

 病んでゆく難役を、説得力のある演技でうならせるのは、先日発表された第80回アカデミー賞の主演女優賞にノミネートされた、ジュリー・クリスティー。惜しくも受賞は逃しましたが、ゴールデン・グローブ賞のほうは受賞。彼女は1965年に「ダーリング」でアカデミー主演女優賞受賞経験があります。当時は、自由奔放な娘をいきいきと演じてセンセーショナルを巻き起こしましたが、若き日の本人は地でいっているところがあったようです。まず、共演のテレンス・スタンプとのロマンスが噂になったのを皮切りに。

 1941年、父が茶園経営の仕事のためにいたインドで生れ、ロンドンで勉強し、のちに「真夜中のカーボーイ」(1969)を作るジョン・シュレシンジャー監督に見い出されて、24歳の時「ダーリング」で一躍スターとなる。続けて「ドクトル・ジバゴ」(1965)「華氏451」(1966)、「遥か群衆を離れて」(1967)、「恋」(1971)、「ギャンブラー」(1971)、「ナッシュビル」(1971)と、次々に名監督たちとの出会いに恵まれ、映画史に残る傑作に出演。

 1968年頃から、あの2枚目スターで浮いた話の多かった、監督でもあるウォーレン・ベイティと付き合いながら共演も続けた。「シャンプー」(1975)ではかなり大胆なラブシーンを熱演。ハートウォーミングな「天国から来たチャンピオン」(1978)が二人の代表作でしょうかね。結局、結婚はしなかった。別れた後はハリウッドから祖国イギリスに戻って活動を続け、ジャーナリストのパートナーと、28年間の交際を経て、遂に、昨年66才で初めて結婚した。ずっとヒッピー的な生活を好み、自由な思想の持ち主だった彼女もさすがに人生の終章は落ち着きたいのでしょうな、ま、しかしアッパレな生き方ですな。

■末恐ろしい29歳の女性監督初メガホン

 オロオロしながらも、深い愛情と執念で妻を見守り続ける夫役は、1930年生れのナカダのベテラン俳優ゴードン・ピンセント。このヒト、何とも味があってイイ顔。妻を暖かく見守る眼差し、いじましく情けなく、妻に戻ってきて欲しいと懇願する眼差し、入院先で妻と仲良くなった男性患者に嫉妬する眼差し。寂しさ、動揺、諦め、弱さ、希望、強さ・・・多くを語らずとも、目で十分演技ができるのはベテランならでは。

 「これは私の罪の償いなのか?」夫は、苦しみのあまり、妻が自分に対して罰を与えようと、本当は分かっていながら演技をしているのではないか?と思ったりする。長らく封印していた若かりし頃の、過去の記憶が噴出する。

 ふと想ったのですが、これは単に高齢者のおハナシではなく、人間対人間(またはその他との)のコミュニケーションのお話に他なりません。そう、普遍的なテーマなのです。相手と意志や気持ちが通じることと、通じないことは、日常誰もが多少なりとも味わって生きています。上手く疎通ができるときと、出来ないとき。誰が正気で、誰が狂気なのか。皆自分の世界に生きている。記憶と忘却。多かれ少なかれ、人間はどんどん記憶を失っていきます。覚えていたいことだけを覚えていて、忘れたいことは忘れる。しかし、ときにはそれが思い通りにいかなかったり。最近のことは良く忘れるのに、昔の鮮烈な思いでは決して忘れなかったり。病気でなくても、人間は元々不完全な存在ですから。

 監督はなんと驚くべきことに、まだ29歳という若さの、「死ぬまでにしたい10のこと」(2003)で主演の女優サラ・ポーリーが初めて手がけた長編映画。最初の作品にこの題材、この深遠なテーマを選ぶのか?! どういう成熟の仕方をしているんでしょうか〜?と思ったけど、上記のような理由で、年齢は関係ないのかな、とも。サラ・ポーリー主演の「あなたになら言える秘密のこと」(2005)でジュリー・クリスティーと共演したことにより、本作品へ彼女に出演依頼したらしい。とにかく、末恐ろしいコ(監督)ですな。初夏にロードショウ、このような映画もたまにはイイです。特にパートナーと一緒に観ることをお薦めしますね。

ラジカル鈴木
 フリーのイラストレーターとして20年以上のキャリアを持ち、現在ではイラストのみならず、雑誌や新聞で映画レビューや旅行ルポ、ダイエット記などを執筆しており文筆家としても活躍している。

 ニューヨーク・アート・ディレクターズ・クラブ賞銅賞受賞(米国)、ユネスコ国際ポスター展入選(仏蘭西国)をはじめ、国内外の賞を数多く受賞している。2006年には文化庁メディア芸術祭10周年企画「日本のメディア芸術100選」のアート部門に1999年の「大顔展」の宣伝ビジュアル作品が選出された。

 公式サイト http://www.big.or.jp/~radical/
 
(すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)
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