私が日本に来た時に魅了されたのは、東京の街の「ごちゃごちゃ」。統一された景観もハーモニーもない。でも、ビルの谷間の木造民家や寺といった建物、ガード下のような庶民的スポット。それらが何とも言えない味わいをもって、私の心をつかんだのです。
今、再開発の名の下に、こうした場所がどんどん姿を消しています。歴史的な建物や象徴的な街並みをエリアごと一気に取り壊し、巨大なビルやショッピングモールを造る……。新しいばかりで何の味わいも感じられません。
パリには、古い建物を保存し、景観を保つために建造物の色や高さを制限する法律があります。これがパリの魅力を守っています。60年代にマルロー文化大臣が始めた取り組みです。
私は、「私の街、神楽坂」を心から愛しています。なぜなら、誰もが思う日本の良さを感じられる街だから。その神楽坂も取り壊しの波にのまれ、消え去ろうとしています。日本人は「美」に対して敏感なはず。花街の雰囲気を味わえる石畳の路地裏に、どうしてビルを建てる必要があるのでしょう?
去年から文化庁の「文化発信戦略に関する懇談会」の委員を務めていますが、文化は、発信と同時に守る努力も大切です。神楽坂を愛する人たちが開発反対の運動をしていますが、実を結ぶまでには至りません。これも、文化を守るための法律がないせいです。
東京都の歴史的景観保全の取り組みは始まったばかり。京都の条例などにならい、やはり大切な場所は法の力で守っていくべきでしょう。神楽坂もそのひとつ。石原都知事、どうぞ東京を人間味と文化のない街にしないでください!