一期一会とは、あらゆる出会いを生涯にただ一度と考え大切にする心がけを表す言葉です。
「江戸しぐさ」でも、おつき合いを大事にします。たとえば渡し舟に乗り合わせたような時、「束(つか)の間つき合い」と言って、見知らぬ他人にいやな感じを与えないよう、仏頂面をせずに、なごやかに軽くあいさつをかわしました。
観光シーズンの今、旅行や観劇など、見知らぬ人とすれ違ったり相席になったり、たった一度の「おちかづき」が頻発します。ぶつかったり、切符を買うのにてまどり次の人を待たせたりした時、「束の間つき合い」の心が場をなごませます。車内が込んできたら、こぶし一つ分腰をあげて席を詰め、1人でも多く座れるようにする「こぶし腰浮かせ」も基本の動作です。
何年か前に初めて名古屋に行ったときのこと、駅構内でうろうろしていた私に、「何かお探しですか」と声をかけてくれた上品な中年女性がいました。ほっとしてホテルへの行き方をたずねると、「それは西の方へ出られて、そこからタクシーにお乗りになるといいですよ」と、実際に指をさして教えてくれたのです。西も東も分からなかったのでそのしぐさはとてもありがたく、お礼を言って何歩か歩いて振り返ると、その女性は心配そうにこちらを見守っているではありませんか。思いがけず名古屋で出会った「江戸しぐさ」に、一日中にこにこしていたい気分で、名古屋がすっかり好きになって帰ってきました。