そもそも誰かとウマが合わないとか、物事が思ったとおりに運ばない、ということはよくあります。でもとにかく、江戸っ子は陽気で明るく楽観的でした。人の短所は十分知ったうえで、良い面だけを強調しました。初対面の人にも十年の知己のような人なつこい表情で接し、決して身構えません。そのほうが人生は楽しいと判断していたのでしょう。たとえ失敗しても「だめでもともと」とすぐ立ち直る潔さとめげない精神ももっていました。たとえば、「千円しかない」とがっかりするより「千円もある!」と考え、物事を「陽にとらえる」のが江戸っ子の生き方だったのです。
陰気な目つきは「陰り目」と言って嫌われました。商人が暗い目をしていたら買う気がなえてしまいます。同じ品物なら、愛想よく客さばきが上手な売り手から買いたいのが人情です。
良い店とは、言葉を交わさなくても、こちらの気持ちをくみ取ってくれるような、すっと入ってすっと出られる店なのだとか。売り手も買い手もお互いに、店でのやりとり自体を楽しみました。
江戸商人は、やる気、根気はもちろんですが、呑気(のんき)なところもあったようです。腹が立つことがあっても、冷静になるまで待って争いを避けました。明日になればどうでもいいことに思えるかも知れない、あってもなくてもいい存在という意味で、このしぐさを「夜明けの行灯(あんどん)」と言いました。衝動をコントロールする知恵ですね。