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2006.7.5(水)更新  江戸しぐさ

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「草主人従」の思想

 加賀の千代女(1703〜75年)の句「朝顔に釣瓶(つるべ)とられてもらひ水」は、繊細な感性が表現されていると有名です。しかし江戸の町方のリーダーたちは、この句に別の意味を読みとっていました。

 朝顔に支えをせず釣瓶に巻き付かせてしまった「うかつさ」は、先読みが大切な商人にとっては失態です。つるをはずせば枯れるので、朝顔を優先し、自分の水は借りにいかなければなりません。水売りもいた江戸の町では、水は大切なもの、借りたら返す義務も生じます。こうした事態を招いた自分のうかつさをたしなめる句として、寺子屋で教えたというお話です。

 夏に涼しい日陰をつくるケヤキは、防風・防火の目的で、お屋敷のまわりに多く植えられました。そのため、落ち葉を通さず雨水だけが流れるようふたを付けた竹製の樋(とい)を設けていたのですが、後に安くふたのないブリキの樋に変えたところ、落ち葉がたまって樋が腐ってしまいました。そこでなんとケヤキを片端から切り倒してしまったのだそうです。古老たちはその短慮を嘆き、目先だけの利益で行動する人々を「ケヤキ切るバカ」と呼んだそうです。

 これらの背景には「草主人従(そうしゅじんじゅう)」という思想がありました。「草主」とは自然への敬服の念を持ち、「人従」とは人がその偉大さに従うということです。日本人は昔から「おてんとうさま」を拝む習慣がありましたし、自然を征服するという考えはなかったようです。

(江戸しぐさ語りべの会・主宰)

題字・イラスト 伊藤美樹

越川 禮子

(2006年7月5日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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