「そんなこと朝飯前だよ」。簡単にできることを、よくこんな言い方をしたものですが、江戸人の「朝飯前」は、意味合いがちょっと違いました。文字どおり朝ご飯を食べる前にする「働き」のことなのです。
向こう三軒両隣に声をかけ、母子家庭、父子家庭、あるいは老人の一人暮らしの中で困ったことが起きていないか様子を見て、その手当てをするのが日課でした。もちろんこれは浮世の義理で無報酬です。
朝ご飯を食べたら、身過ぎ世過ぎ(生活)のために働きお金を稼ぎます。昼食が済んだ午後からは、人のため、町のために、「はた(傍)を楽にする」働き、今でいうボランティアに精を出したそうです。職種にもよりますが、「江戸っ子は3〜4時間しか働かない」というのは、どうもそのあたりから来ているようです。
夕方は、夏などはみんなで一斉に打ち水をして、明日も元気で働くために備えました。「あそび」に引っかけてこれを「明日備(あすび)」といい、リフレッシュ、レクリエーションの時間だったのです。
よく働きよく遊びストレスをためないというのが江戸の暮らし方だったようです。しかも人の評価は、午後の「傍を楽にする」働きの多い少ないで決まったそうです。
地位や財産でなく、自分以外の人や世間のために働くことに人間の価値をみる。「自己中」なんて言葉は、江戸にはなかったのでしょうね。