梅雨があければもう夏。盛夏になると、町方は昼休みの午睡の時間を四半時(30分)延ばしたそうです。夏バテしないための知恵だったのでしょう。
健康のための自己管理は、江戸しぐさでは大事なことの一つです。今は、風邪くらい大したことないと注射打ち打ち飛び回るビジネスマンが多いようですが、こじらせて取り返しがつかなくなることもあるのです。食事の前には手を洗い、江戸講の寄り合いでは熱湯(ねえゆ)で茶わんを消毒しました。人の集まる場所ですから、せきやクシャミの出る人は遠慮しました。これらは衛生思想の発達していた江戸っ子の習慣になっていたのです。
特に気を病むこと、今でいうノイローゼには気をつけました。ストレスを感じたら十分睡眠と栄養をとり、無理をしないことが前提でした。私の江戸しぐさの師である故・芝三光先生は、よく「一に眠り、二に眠り、三に赤ナス(トマト)、四にめざし」と言われたものです。
気を病みそうな人には「気の薬」をあげました。気の薬とはある種の優しい気遣いのことです。それとなく助言したり、安心させたりという、まさに思いやりのしぐさです。反対にストレスや不安など、嘆いたり困ったりする原因や、行為そのものを「気の毒」と言いました。ただ「お気の毒に」と同情するだけで何のアクションも起こさないのは「見下ろししぐさ」とされました。「気の薬」をあげられる人は、今では本当に少なくなってしまいました。