昔、考え事をしながら歩いていたら、いきなり背後から声をかけられました。「お茶飲みませんか」と言われたのですが、だしぬけの「不意打ちしぐさ」だったので、心底びっくりしてしまいました。強盗にでも遭ったように驚いたので、今度はその若い男性が飛び上がり(本当にジャンプしたのです)、雲をかすみと逃げていきました。
江戸しぐさでは、後ろから唐突に声をかけてはいけませんでした。親しい人にも、追いついて同じ目線で並び正体を明かしてから初めて声をかけました。
声をかけられる側も注意が必要です。大声をあげたら思いがけない二次災害を起こしかねません。ちょっと声をかけただけなのにと、相手を怒らせてしまうかも知れませんし、まわりの人まであわてさせることもあります。こんな時に備えて心がけておきたいのが「無悲鳴のしぐさ」。不意の時にも「悲鳴」をあげず対応できるよう心構えをしておくことです。どんな場合でも冷静さが必要だと示唆しているのだと思います。
また、往来の多い江戸の町では、事故を防ぐため、理由もなく通りを走る「韋駄天(いだてん)走り」は控えました。ただし飛脚やけが人、急病人が出たときは例外でした。お産婆さん(助産師)も大名行列を横切ることが許されたそうです。
江戸は古いようで、規則にも例外があり、ケースバイケースで判断しました。臨機応変、融通無碍(ゆうずうむげ)なところがあって面白いと思うのです。