江戸商人の心得として、やる気、根気に続くのが「呑気(のんき)」なのだそうです。矛盾しているようですが、人生も商売も、いいことばかりが続くはずはありません。だめでもともと、ものごとを長い目で見て、「陽」にとらえるのが呑気しぐさ。今で言うスローライフのような自然体の生き方で、無理は禁物でした。
自分自身の能力を正確に把握することも大切です。元気に引き受けても土壇場でキャンセルしたら、はた迷惑ですし、何より信頼を失うことになります。無理を承知で人に押し付ける「無理押し」などは論外です。
アメリカで、ある老人ホームを見学したとき、老人と会話を交わしたり、さまざまな要求に対応したりするコーディネーターの女性が、「私は1日5時間以上は働きません」というので、ちょっと驚きました。わけを聞いたら、「相手に優しく接することが出来なくなるから」という答えで、なるほどと納得しました。
70年代にアメリカで始まった、老人解放運動の団体「グレーパンサー」のマニュアルにも、「あまり熱中して燃え尽き症候群にならないように」とありました。洋の東西を問わず、何事も過ぎたるは及ばざるがごとし。無理をすれば、機械でもゆがんだり壊れたりしますし、人間だったら病気になります。江戸商人のリーダーたちはいつも、過不足のない中庸な姿勢を保ち、バランス感覚の優れた良識人だったようです。